読み始めた直後は、イヤミスだった。
育児もママ友との関係もストレスだらけなのに、幸せ家族を演じる嘘だらけのブログをアップする主婦。同僚のパワハラを受け、過食に走る保育士。子どもが欲しいのに、年下の夫とのセックスレスに悩む妻。外からは幸せな家族に見えるが秘密を抱える女。どこから見ても破滅に突き進むしかないイヤミスの設定だ。実際、物語が進むにつれて彼女たちはどんどん泥沼に入っていく。
だが、ラストで瞠目した。これは決してイヤミスではない。むしろ救済の物語だ。それがいちばんの衝撃だった。吸引力抜群のサスペンスの果てに待ち受ける、怒涛のクライマックスに胸が震えた。そこをひっくり返してみせるのかと唸った。ひとつふたつを逆転させることは容易いが、本書はそこで終わらない。この巧緻な心理サスペンスがデビュー作だなんて、なんという手腕だろう!
彼女たちは皆、悩んで足掻いて、全身で悲鳴をあげている。なのに「助けて」が言えない。飲み込んだ「助けて」が腹の中に溜まり、膨れ上がり、彼女たちを内側から蝕んでいく。それを止めたものは何だったのか、どうかそこをじっくり読まれたい。
辛いのに、悩んでいるのに「助けて」が言えないすべてのお母さんへ、孤独に押しつぶされそうになっているすべての人へ、本書を届けたい。
これは、あなたのためのサスペンスだ。
はじめまして。宮西真冬と申します。
このたびは、『誰かが見ている』という「心理サスペンス」でデビューさせていただきました。
が、私はこれまで、本を読むときも、作品を作るときも、「ジャンル」という物をあまり意識したことがなく、その定義もよく分かっていませんでした。
そんな折、前作の『秘密の花園』がメフィスト賞の座談会に残ったので、編集部のTさんから連絡をいただきました。そこで私が質問したところ、Tさんから「ミステリとは何か?」「サスペンスとは何か?」という初歩的なことを、丁寧に、分かりやすく、そして熱く!教えていただきました。
「今度はジャンルを意識して書いてみましょう!」というご提案に、「サスペンス、サスペンス、ドキドキ、ハラハラ」と呟きながら書いたのが、この作品です。
この作品は、女性たちの葛藤の物語です。
最近、メディアでは、「女性はこうあるべきだ」ということが盛んに叫ばれている気がします。
「これからの時代、女性は仕事もして、少子化にならないように子供も作って、お母さんになっても女子力を高く保つために自分磨きをしなければいけなくて……」
器の小さな私は、聞いているだけであわあわしてくるのですが、一見、軽々こなしているように見える友人たちも、「誰か助けて!って思うよ」と余裕がないと知り、私だけじゃないんだなあと安心したりします。
非の打ち所がないように見える彼女たちも、頑張ってるんだな。大変なんだな。
そして、それは、女性だけではなく、男性だって、きっと、いろいろあるはずで……。
「誰にだって弱いところはある。完璧な人なんていない。それでいいよね」
そう言いたくて書いたのが『誰かが見ている』です。
ドキドキ、ハラハラしながらページを捲り、不器用な彼女たちの行く末を見守っていただけると幸いです。
今後は、ページを捲る手が止まらないような、それでいて読み終わりたくないような、そんな作品を書いていけたら、と思っています。よろしくお願いいたします!
なぜ応募先にメフィスト賞を選んだのですか?
辻村深月先生がデビューされた賞だったからです。
また、デビューできなくても、プロの編集の方からコメントやアドバイスが貰えるかもしれないと思い、藁にも縋る思いで投稿しました。
受賞を知ったとき、最初に思ったことは? その後、まずしたことは?
受賞の前に座談会で話題にあがったことを電話で教えていただき、「まさか」と震えました。メフィスト賞らしくない作品を送ってしまったと思っていたので、すっかり諦めて、投稿したことを自分の中でなかったことにしてしまっていました。
受賞の知らせはメールでいただいたので、何度も読み返し、パソコンの前で一人、慌てていました。
受賞の知らせを聞いたのはどこ?
自宅のパソコンの前です。
作家を志したきっかけは?
昔から物を作ることが好きだったので、その延長線上に、物語を作りたい、できれば死ぬまでに本が一冊出せたら素敵だなあと、思っていました。
初めて「小説」を書いたのはいつ頃? またどんな作品?
学生の頃に、恋愛小説を書いたのが最初です。純愛で読み返すと恥ずかしくなりますが、当時考えていたことが丸々出ていて、懐かしいです。
講談社から刊行されたミステリで好きな作品をあげるなら?
辻村深月先生の『スロウハイツの神様』です。
登場人物全員のことが大好きで、私もその仲間に入りたいと思いながら読み返しています。
影響を受けた作家、作品は?
辻村深月先生の作品からは、ミステリという手法を使うことによって、読者を惹きつけ、読み進めるうちにどっぷり世界観に浸れる魅力を教えていただきました。
村山由佳先生の作品には、目の前に情景が浮かぶような文章の美しさや、的確で真に迫るような感情の描写にいつも圧倒され、いつか自分も先生のように言葉を操れたらと、憧れています。
執筆スタイルは?
午前中から夕方にかけて、パソコンの前に向かうようにしています。
が、煮詰まっているときは、何も出てこず、頭を抱え、何時間も経っていたりします。
諦めて別のことを始めると、ふと思いつき、慌ててパソコンの前に戻ることがしばしばあります。よく煮詰まるので、気分転換がうまくできるようになることが、目下の目標です。
執筆中かかせないアイテムは?
牛乳の割合の方が断然多い、カフェオレです。
『誰かが見ている』の執筆期間はどのくらい?
構想から最終稿まで、4ヵ月くらいだったと思います。 自己最短記録でした。 プロの編集の方からのアドバイスは、こんなにも筆を進ませて貰えるのだなあと、魔法にかかったような心持ちでした。
読者の方々に一言!
本作は、4人の女性の心理サスペンスです。
女性は「分かる、分かるよ……」と共感していただけるキャラクターが見つかるかもしれませんし、男性は「女って……」と恐ろしい生物を見ているような感覚になるかもしれません。
ぜひ、この小説を読んでいただき、「どう思った?」と話のネタにしていただけたら、……そしてお互いが思っていることを理解し合うきっかけになったら、こんなに嬉しいことはありません。
どうぞ、お手にとって、読んでみてください!
よろしくお願いいたします!
まず4人の女性の心理、行動、言葉、思考を見事に描き分ける、その文章力に圧倒されました。いわば4種類の異なる価値観を、読者に共感させつつ、ときには反感を抱かせながら伝えていく、卓越した技量。説明的な描写がいっさい省かれているのも驚異です。4人それぞれの視点で語られる物語は、構成がしっかりしているので、読者を混乱させることなく進行します。これも凄いこと。ラストは4人のドラマが精緻なパズルのように組み上がり、意外な事実と心理が次々と明かされ、涙をこらえきれない結末を迎えます。まさに新人離れした、とてつもない傑作です! しかも女性読者だけでなく、男性読者が読んでも面白い! 身につまされ、反省し、そして前を向く気持ちになれます。
2年ぶりのメフィスト賞受賞作が、珍しくど直球のサスペンスであることに戸惑われる方もいらっしゃるかもしれませんが、大矢博子さんがいみじくも喝破したように、この作品は「あなたのためのサスペンス」なのです! ぜひご一読ください!!