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しあわせな死の桜

『しあわせな死の桜』
著者:竹本健治
定価:本体2,200円(税別)

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竹本健治さん著者コメント

 作家デビューから第一短編集の『閉じ箱』までの間隔が十五年。そこから第二短編集の『フォア・フォーズの素数』まで九年。そしてそこからさらに十五年たって、ようやくこの第三短編集『しあわせな死の桜』を出せることになった。というと、いかにもチンタラした仕事ぶりが揺り戻してきているようだが、『フォア・フォーズ』からこちら、牧場智久雑役シリーズが二冊、キララ・シリーズが二冊、連作短編集の『かくも水深き不在』や中編+短編集の『汎虚学研究会』が挟まっていることを考えれば、短編の本数だけ見てもあながちそうとは言えないかも知れない。
 これまで同様、基本、単行本未収録作を集めたが、今回はとりわけアンソロジーに寄稿したものが多く、そのせいか、彩りなりテイストなりがより多面化した集になったような気がする。逆に言えば、竹本世界なんてものがあるとして、そこへのいろんな入口を示した案内図になっているのではないだろうか。いずれにせよ、本書のあとがきにも書いたように、それらのいくつかでも読者の胸に届き、琴線に響くものがあれば、作者としてこれ以上の喜びはない。

竹本健治(たけもと・けんじ)
1954年兵庫県生まれ。大学在学中にデビュー作『匣の中の失楽』を伝説の探偵小説専門誌「幻影城」に連載し、1978年に幻影城より刊行。日本のミステリ界に衝撃を与えた。ミステリ、SF、ホラーと幅広く活躍し、ファンからの熱狂的支持を受けている。 現在は佐賀県武雄市在住。『涙香迷宮』で『このミステリーがすごい!2017年版』国内編第1位。

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担当編集者・戌による作品紹介

竹本健治先生が上記の著者コメントで述べられているように、『しあわせな死の桜』の珠玉の短編12篇はそのまま、竹本健治作品が織り成す小宇宙への案内にもなっています。
詳しくは単行本の竹本健治先生のあとがきと、同じく単行本に掲載されているミステリー評論家・千街晶之さんの解説に記されていますので、ぜひお読みください。
ここでは収録順に、短編それぞれの小宇宙へのつながり方を、「あとがき」と「解説」からかいつまみながら、紹介して参ります。(以下、敬称略)

●「夢の街」 江戸川乱歩の幻想譚へのオマージュ。乱歩幻想をモチーフにした短編には「陥穽」と「月の下の鏡のような犯罪」という名品があります。どちらも短編集『閉じ箱』に収録。

●「彼ら」 <佐伯千尋>という謎めいた女性が登場するシリーズの最新作。これまでに「実験」「闇に用いる力学」「跫音(ルビ:あしおと)」「仮面たち、踊れ」(この4編は短編集『閉じ箱』に収録)、「震えて眠れ」「空白のかたち」「非時(ルビ:ときじく)の香(ルビ:かく)の木の実」(この3編は短編集『フォア・フォーズの素数』に収録)と7つの短編が書かれています。また大作『ウロボロスの偽書』の作中作にも佐伯千尋は登場します。このシリーズを通して読むと、彼女がゆらゆらとした影のような、ますますミステリアスな存在になってきます。

●「依存のお茶会」 不思議な読後感が残る心理ミステリは、竹本健治作品の特徴です。連作短編集『かくも水深き不在』はその頂点とも言えるかもしれません。

●「妖かしと碁を打つ話」 自身がアマチュア囲碁界の強豪であるためか、囲碁を扱った作品は『匣の中の失楽』『囲碁殺人事件』『入神』『ウロボロスの純正音律』『涙香迷宮』など、初期作から最新作まで多数あります。

●「羊の王」 狂気をテーマとした作品も多く、初期の長編『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』『狂い壁 狂い窓』は「狂気三部作」と称されています。また掌編「恐怖」(短編集『閉じ箱』に収録)も必読の逸品です。

●「瑠璃と紅玉の女王」 このようなファンタジックな寓話は、これまでの竹本健治作品にはなかった味わいです。
新たな小宇宙が生まれました。

●「明かりの消えた部屋で」「ブラッディ・マリーの謎」 明朗な青春ミステリの佳篇。天才囲碁棋士・牧場智久が登場する『狂い咲く薔薇を君に』『せつないいきもの』も同様のテイストの連作集です。

●「妙子、消沈す。」 美少女メイドロボット・キララが登場するシリーズは、『キララ、探偵す。』『キララ、またも探偵す。』の2冊にまとめられています。

●「トリック芸者 いなか・の・じけん篇」 「トリック芸者」は大作『ウロボロスの偽書』の作中作として始まったシリーズで、怪作「メニエル氏病」(短編集『フォア・フォーズの素数』に収録)がすごい。通読すると、このシリーズのとんでもない趣向がわかり、絶句するでしょう。この趣向は山田風太郎の超絶技巧連作集『妖異金瓶梅』と共通しており、風太郎と健治、2人の天才の競演と言えます。

●「漂流カーペット」 佐藤友哉「鏡家サーガ」のトリビュート作品。「鏡家サーガ」は現在、『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』を皮切りに7冊が刊行されています。

●「しあわせな死の桜」 もともとは掌編連作「七色の犯罪のための絵本」を収録した『虹の獄、桜の獄』が刊行される際に書き下ろされた短編です。登場人物の一人、ゴーちゃんは竹本健治が20歳の時に書いた短編「夜は訪れぬうちに闇」(短編集『閉じ箱』に収録)でも描かれており、愛着のあるキャラクターと思われます。

短編集『しあわせな死の桜』の多彩な12編を入口にして、竹本健治作品の多面的な小宇宙をさらに楽しんでいただけることを願っています。
(長編『涙香迷宮』単行本の巻末には竹本健治著作リスト&ガイドが掲載されていますので、そちらもご活用いただけると幸いです。)

担当編集・戌 記

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