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『ブラッド・ブレイン 闇探偵の降臨』

『ブラッド・ブレイン 闇探偵の降臨』小島正樹
ある母娘を脅かす「悪魔の声」。その正体と目的は?
警視庁捜査一課の刑事・百成完(ももなりかん)から相談を受けた「闇の探偵」月澤凌士(つきさわりょうじ)は、たちどころにその謎を解き明かす。だが、それは複雑怪奇な連鎖殺人の序章でしかなかった。
完璧なアリバイを支えるトリックと、犯罪の恐るべき全貌を月澤は見破れるか?
そして月澤自身に隠された最凶の秘密とは?
本格ミステリー界を揺さぶる強烈な名探偵登場!!

ある母娘を脅かす「悪魔の声」。その正体と目的は?
警視庁捜査一課の刑事・百成完(ももなりかん)から相談を受けた「闇の探偵」月澤凌士(つきさわりょうじ)は、たちどころにその謎を解き明かす。だが、それは複雑怪奇な連鎖殺人の序章でしかなかった。
完璧なアリバイを支えるトリックと、犯罪の恐るべき全貌を月澤は見破れるか? そして月澤自身に隠された最凶の秘密とは?
本格ミステリー界を揺さぶる強烈な名探偵登場!!
『ブラッド・ブレイン 闇探偵の降臨』
著者:小島正樹
定価:本体930円(税別)
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『ブラッド・ブレイン』に登場する、あのキャラクターの少年時代の一景が 爽やかに描かれているショート・ストーリーです。が、なんと○○トリックが仕掛けられています。最後まで読んだら、もう一度、アタマから読み返してみてください……驚愕します!!  一坪に満たないほどの狭い小屋だ。照明はなく、窓もない。玄関扉さえなくて、開いたままの入り口から午後の陽ざしが入り込み、小屋の中は薄明るい。
 そこに少年が
いた。学校から帰宅して、ランドセルを自分の部屋に放り込み、ここへ入ったのだ。  小屋の中、少年はひとりではない。少年の傍らに親友がいる。斑空也(ぶち・くうや)という少し変わった名前で、正確な年齢は解らない。少年とはもう、三年ほどのつき合いだ。
 学校で嫌なことがあると、少年はこの小屋へきて空也に色々と話をする。いつしかそれが習慣になった。無口な空也は、よく愚痴を聞いてくれるのだ。
「プロレスごっことか、ほんとうは嫌なんだけど、やらないと仲間はずれにされちゃうから」
 空也に向かって少年が言った。空也は何も応えず、優しげなまなざしを少年に向ける。
「楽しいことも多いけど、嫌なこともあるよね。学校……」
 と、少年はあどけない口から、ため息を落とした。心配そうに空也が顔を寄せてくる。
「ありがとう、空也」
 言って少年が、空也の首に腕をまわす。遠くから、ミンミンゼミの鳴き声がした。 「あと十日で夏休みだね」
 声を励まし、少年は空也に言った。
「夏休みになったら、どこか行こうよ」
 少年の言葉に空也は、沈思の様子を見せる。
「湾……」
 やがて空也が小さく言った。
「そうだね、うん、東京湾へ行こう! ずっと前に父さんがね、釣り船に乗せてくれたことがあるんだ。また釣り船に乗せてほしいって、父さんにねだってみるよ。でも空也は乗れるかな、船に」
 空也が鼻から息を吐く。
「乗れなかったら、海岸から釣りをしよう! ありがとう空也、なんか楽しくなってきた」
 少年は目を輝かせた。照れたふうに、空也が首筋を掻く。体をあちこち掻くのが、空也の癖なのだ。
「腕」
 小さな沈黙のあとで、空也が言った。
「腕がどうかしたの?」
 と、少年は自らの腕に目をやる。蚊に刺された痕があった。
「大丈夫、もう痒くないから。空也は優しいね」
 そう言って、少年はにっこり笑う。気がつけばもう、学校で受けた心のささくれは消えていた。
「完(かん)ー!」
 母親の声が外から聞こえる。
「なあに、母さん」
 少年は応えた。
「また犬小屋に入り込んで。もう出てらっしゃい、おやつの用意できたから」
「うん、解った。それじゃ空也、またあとでね!」
 飼い犬の空也にそう言い残し、少年は犬小屋を出た。夏色の空に、眩いばかりのお日様がいる。さんさんと降り注ぐ陽光を浴びて立つ少年は、もうすっかり元気だ。

 この少年、百成(ももなり)完が長じてのち、警視庁捜査一課の刑事になる。そして最凶の闇探偵・月澤凌士(つきさわりょうじ)と宿命の出会いを果たすのだが、それはまだ随分と先の話である。

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「悪魔の声」事件を発端とする、複雑怪奇な連鎖殺人に挑んだ「闇の探偵」月澤凌士と、そのパートナーというべき警視庁捜査一課の百成完刑事に独占インタビューが敢行された。 場所は、月澤凌士が優雅に過ごす特別室。百成刑事同席のもと、まずは天才・月澤凌士にいくつか質問がぶつけられた。 「百成刑事が持ち込む謎をたちどころに解き明かすことに驚くのですが、どうやって推理しているのですか?」
「その問いはおれにとって、『どうやって息をしているのですか?』という質問と同じだな」
 あっさりかわす月澤。質問者は予期していたのか、めげることなく 、「シャンパンを飲みながら推理をめぐらすことが多いですが、シャンパンに対する何かこだわりはありますか?」
「適度のアルコールは、脳を活性化させる。上質な脳には上質なシャンパンを」
 その言葉どおり、月澤の前のテーブルにはシャンパンが注がれたグラスが置かれている。
「なるほど……しかし今は美味いシャンパンを揃えたお店に行きたくても、ある事情で自由に外出できない生活を送られているわけですが、住み心地はいかがですか?」
「この部屋からは、彼方まで海が望める。眺望はよく、前室があってこの主室があるから、広さも申し分ない。それともうひとつ、気に入っていることがある」
「なんです?」
「『外出』はできないが、『脱出』はできるかも知れないってことさ」
 と、月澤はあるかなしかの微笑みを浮かべた。
「ご自身が『闇の探偵』と呼ばれていることはご存知ですか? そのことへの感想は?」
「以前に百成から聞き、知っている。事件の闇を暴くからそう呼ばれるのか。闇の中で事件を解くからそう呼ばれるのか。いずれにしても、感想などない」
 質問者は、やりとりを興味深そうに聞いている百成にちらりと視線をやってから 、「百成刑事への評価を教えてください」
「C-、時々F、ごくまれにA+かな」
 そう応え、月澤はシャンパングラスに手を伸ばす。シャンパンを一口飲み、質問に答えるのはもう面倒とばかり、窓の彼方へ視線を転じた。

 その様子を見て、質問者は肩をすくめ、相手を百成に替えた。
「天才的な推理を披露する月澤凌士さんのことをどう思っていますか?」
「すごい方です。その推理能力は計り知れません」
 百成は生真面目に答える。
「おれが横にいたのでは、応えづらいだろう。ジムへ行ってくるよ」
 月澤がそう言って、微風のように部屋を出て行く。質問者と百成だけが残された。質問者が百成に、改めて同じ問いかけをする。
「月澤さんはすごい方です」
「あの、もう月澤さんはいませんけど」
「それはそうですが」
 と、百成は月澤が出て行った扉に目を向けた。
「本音で応えちゃってください」
 誘うように、質問者が言う。
「ええと、はい。月澤さんの推理能力はずば抜けており、その点は尊敬に値します」
「どこか含みのある言い方ですね」
「いえ、そんな。でも月澤さん、私のことを時々からかうのです。それがちょっと……」
「そうですか。ところで月澤さんとふたりでいる時、ふっと彼の過去を思い出したりしませんか?」
「それはあります」
「怖くなりませんか?」
「最初の頃は一緒にいるだけで、そそけ立つような恐怖や緊張を感じました。でもいつしかそれが薄れたのです。今では頼れる兄のように思うことさえあります」
 そう答える百成を少し驚いたように質問者は見つめる。
「百成さんはほとんど休みの日がないようですが、気分転換の趣味とかはありますか?」
「仕事が趣味です」
 きっぱりと言い、そのあとで百成は気が弱そうにうつむいて、言葉を継いだ。
「とはいえ息抜きも必要ですよね。月澤さんの推理によって事件が解決し、理事官からの呼び出しがない夜に限り、友だちと飲みに出ます。でもほどほどにしないと酒癖が……」
「どんな酒癖があるのですか?」
「黙秘します」
 沈黙が降りた。やがて質問者がしじまを破る。
「真面目で優秀な刑事という印象ですが、何か隠していることはありませんか?」
「いえ、隠し事などありません」
 わずかに目を泳がせて、百成が応えた。そこへ扉が開き、月澤が姿を見せる。
「月澤さん! ジムへ行ったのでは?」
 百成が問うた。
「気が変わって、前室にいたんだ」
 と、月澤は百成の隣のソファに腰かけた。そして言う。
「さて、話を戻そう。百成の隠し事だが」
「隠し事なんてないですよ」
「そうか?」
 言って月澤は百成の耳に口を寄せた。ひそひそと何事かを囁く。
「え、嘘……。どうして月澤さんが、そのことを知っているのです!?」
「さて、どうしてだろうな」
 と、月澤がソファに背を預けた。身を乗り出して質問者が口を開く。
「百成さんの隠し事、教えてください!」
 すると百成が、捨てられそうな子犬の目を月澤に向けた。呵々と笑って月澤が言う。 「さて今度こそ、おれはジムに行ってくる」
 腰をあげ、背中を見せて、月澤が部屋を出て行く。
「さあ、次の質問に移りましょう」
 急かすように百成が言った。咳払いを落とし、質問者が口を開く。
「今回の事件について、どういう感想を持ちましたか?」
 さっと表情を引き締めて、百成が応える。
「別々に発生したはずのいくつかの事件。月澤さんの推理でそれらが次々に繋がっていき、気がつけば私の目の前には、とてつもない真相がありました。
 血だまりの死体と血文字の赤いアリバイ。四人の証言者による鉄壁の白いアリバイ。それらを崩したのは、残念ながら警察ではなく月澤さんです」
「月澤さんであればこそ、血文字がらみの事件を解いたのでしょうか?」
「解りません。けれど月澤さんがいなければ、今回の事件は未だに解決していない。それは断言できます。
 私はちっとも、事件解決の役に立てなかった。その忸怩たる思いを抱きつつ、限られた時間の中で月澤さんから、推理法や思考を盗まなければと思います」
 そう語る百成の目に、わずかに思い詰めた光を感じ、質問者はインタビューを切り上げることにした。
月澤と百成との間にどこか危うい絆が生まれているのを感じながら……。

Profile
小島正樹(こじま・まさき)
小島正樹(こじま・まさき)  埼玉県生まれ。2005年、島田荘司氏との共著により『天に還る舟』(南雲堂)を上梓。
 2008年、『十三回忌』(原書房)で単独デビューを果たす。2015年、『扼殺のロンド』(双葉文庫)で第6回エキナカ書店大賞受賞。スケールの大きなトリックと、どんでん返しを得意とし、アイディアを惜しみなく盛り込む作風は「やりすぎ本格ミステリー」と称されている。

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担当コメント

 8月に刊行された講談社文庫『武家屋敷の殺人』が早くも大増刷され、波に乗っている小島正樹さんの完全新作ミステリー『ブラッド・ブレイン 闇探偵の降臨』が、9月に講談社ノベルスから刊行されました。
 小島さんと言えば、謎とトリックがてんこ盛りの「やりすぎ本格ミステリー」がキャッチフレーズ。奇抜なアイディアを惜しみなく注ぎ込み、最後の最後まで逆転劇が続く濃厚な面白さは、もちろんこの新作でも存分に味わえます。が、新作のさらなる眼目は初登場となる「闇の探偵」月澤凌士の強烈な存在感! 青年刑事の百成完に情報収集をさせ、一気果断に謎を解く月澤の「本当の姿」が明らかになる時、読者はこの物語全体に仕掛けられたトリックに気づき、大きく息を呑むことでしょう。
 小島正樹さん渾身の傑作です。ぜひご一読を!

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