自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を越えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を越えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
シリーズの端緒となった『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』は〈裁かれない罪〉を通奏低音にしていた。それは物語を紡ぎ始めた頃に、猛烈に興味を惹かれたテーマの一つだったからだ。同書を刊行した際にもコメントしたのだが、世の中には人を殺しても罰が与えられないケースがある。戦争、刑法三十九条、少年犯罪、緊急避難、そして死刑である。このうち少年犯罪は『贖罪の奏鳴曲』で扱い、言葉足らずであった部分を第二作『追憶の夜想曲(ノクターン)』で補完した(従って第一作と第二作は二冊揃えて一つの物語と捉える向きもあるようだ)。そして先述した他の〈裁かれない罪〉も別作品で咀嚼していった。
そこでシリーズ三作目となる『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』でようやく緊急避難を取り上げることにした。緊急避難によって〈裁かれない罪びと〉となった人間。だが結局は法律以外のもので裁かれる宿命にあるそれはシリーズの主人公である悪辣弁護士・御子柴礼司に課せられた宿命でもある。〈裁かれない罪びと〉が同じ境遇の人間の犯罪を巡り、何を得、そして何を失うのか。御子柴礼司の贖罪の行方を、是非あなたの心で見届けてほしい。
PROFILE
中山七里(なかやま・しちり)
1961年、岐阜県生まれ。2010年『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。近著に『嗤う淑女』『ヒポクラテスの誓い』『総理にされた男』『闘う君の唄を』『ハーメルンの誘拐魔』などがある。
人間を突き動かす想いの強さと法の力の限界を痛感させられる
第一級のエンタメ作品だ!
三省堂書店営業企画室 内田 剛さん
この裁判員のひとりだったら苦悩するだろう。
人が人を裁く難しさを思い知った。
文教堂書店西葛西店 水野知博さん
かつての恩師を助けるため、心が揺れる御子柴がとても人間くさく
魅力的でした。
MARUZEN 名古屋本店 竹腰香里さん
一気読み間違いなし。
どんでん返しの連続です!
書泉グランデ 近藤茂樹さん
「王様のブランチ」「ダ・ヴィンチ」などで絶賛され、WOWOWでドラマ化された『贖罪の奏鳴曲』。シリーズ3作目で大きな争点になるのは「緊急避難」です。10年前、沈没する船で女性から救命胴衣を奪い生き延びた男性。そして御子柴の恩師・稲見の殺人事件。繰り広げられる法廷劇は、これまでの2作以上に迫力満点! そして御子柴に「贖罪」の意味を説いた稲見は罪に問われるのか? 御子柴と稲見の「闘い」をご堪能ください! また第2作『追憶の夜想曲』の文庫版も同時刊行されますので、そちらのほうも読み逃しなきよう、お願いいたします。