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『その可能性はすでに考えた』
『その可能性はすでに考えた』

『その可能性はすでに考えた』
著者:井上真偽
定価:本体900円(税別)

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著者コメント

どうも、井上真偽です。
ようやく第二作をお届けすることが出来ました。
今回、前作の中で個人的に好きだったキャラ、上苙(うえおろ)とフーリンに焦点を当てています。
といっても前作とは全くつながりはありませんので、どうぞ初めての方も安心して手にお取りください。

本作の主人公・上苙丞(うえおろじょう)は、探偵です。
探偵小説における探偵とは、古来より「謎」を解く者──例えば一見不可能に見える犯罪が実は可能であることを示したり、摩訶不思議な怪奇現象の原因をつきとめたり、些細で不可解な人間の行動からとんでもない真実を導いたりするのが、彼あるいは彼女らの役割であり真骨頂です。

けれど、この男は違います。

この男は、一見不可能なことを、本当に不可能だと証明しようとします。

いわば探偵の本分を逸脱しているわけです。
では仮にそんな男が存在した場合、そこには探偵小説としていったいどんな物語が紡がれるのか──という興味を主軸に、そこに中国人キャラとか奇蹟とか聖人伝説とか拷問知識とか諸々ぶっこんでごった煮にして撹拌して出来たのが、この作品です。

決して万人の好む味とは言いませんが、とにかくインパクトのある味には仕上がったと思います。
そんなこんなで多少力業ではありますが、半年間の作者の懊悩と煩悶を込めた全力のトリック、どうぞお受け取りください!

PROFILE

井上 真偽(いのうえ まぎ)
東京大学卒業。神奈川県出身。
『恋と禁忌の述語論理(プレディケット)』で第51回メフィスト賞を受賞。本作が二作目となる。

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HP限定! スペシャル ショート・ショート

──南阿佐ヶ谷、某テナントビルの某探偵事務所内。

「……大変だ、フーリン」
「何ねウエオロ」
「このあらすじを見ろ。今回の僕たちの遭遇する事件だ。首を斬られた少年が、少女を運んで歩く……? 信じられるか? そんなもの、まるっきり奇蹟じゃないか!」
「確かに信じられないね。お前の頭のお目出度さが」
「それはまさにパリのディオニュシウス──首なし聖人の奇蹟だ。こうしてはいられない、早速現地に調査に赴かねば。さてフーリン。そこで一つお願いなんだが……」
「何ね?」
「そろそろこの、僕の手足の結束バンドを外してくれないか?」
「なぜね?」
「なぜって、その……動けないから」
「動けないのも当然ね。なぜならお前は今、身柄を拘束中の身だからね。わかってるのかウエオロ? 奇蹟の証明より何より、お前が今一番解決しなきゃいけない問題は、明日が支払期日の私からの借金の利払いね。明日までに当月分の利子約180万円を払えなければ、お前の体が首なし聖人並みに残念なことになるよ。さてどうするね?」
「どうするって……払えないものは仕方ないだろう。無い袖は振れん」
「そうか。なら出せるものを出すしかないね。この事務所の表にケータリングに偽装したバンを待たせてあるから、そこに乗り込むね」
「どうして?」
「横浜に一人、ヤブだが摘出手術の腕は確かな医者を知ってるね。今からそこに連れてくね。180万くらい腎臓一つで余裕で何とかなるね。ケータリングに偽装したのは、腎臓【キドニー】パイを運ぶというこちらなりの小粋なジョークね」
「まったく笑えないんだが」
「私は笑えるね」
「……ちょっと待てフーリン。話の流れが明らかにおかしい。確か僕たちは今、小粋な会話でさらっと本の内容を紹介するというゆるふわなミニコーナーの真っ最中ではなかったか? それがどうして拉致監禁及び臓器売買みたいなドス黒い話になってる」
「何の話だかさっぱりね。ちなみに今、この事務所がある南阿佐ヶ谷から横浜の石川町までルート検索したが、第三京浜と横羽線使って所要時間48分と出たね。意外と近いね。深夜だし、一度車に乗ったらもうお前の命乞いをじっくり聞く暇もないね。だから言いたいことは今のうち言っとくね」
「はは、フーリン……そう具体的なルートと時間を詳述されると、まるで君が本当に本気みたいで怖いじゃないか」
「だから本気ね」
「……すまない。あと一ヵ月待ってくれないか? いや一週間、いや三日──」
「急に現実を認識したか。しかし何の工夫もないストレートな命乞いで逆にびっくりね。お前は少しは使える頭を持っているんだから、不毛な奇蹟の証明なんかよりそれをもっと目先の問題解決に役立てたらどうだ? 何か金策の目途は立たないのか? ひとまずはこの事務所の家具や備品を売るとか──」
「その可能性はすでに考えた。だが無理だ。知り合いのリサイクル業者に見てもらったが、全部売り払っても夜逃げの費用にもならない」
「恥を捨て、親類縁者に頭を下げて金を借りまくるとか──」
「その可能性はすでに考えた。だが無理だ。今の僕はほとんど天涯孤独の身のゆえ」
「決算書を偽装し、銀行をだまくらかして事業資金を引っ張る──」
「その可能性もすでに考えた。だが無理だ。そんなのは道義的にどうあっても僕の矜持が許さないし、そもそも相手にしてくれる銀行がない」
「……なぜ金を借りる前に、返済できない可能性を考えなかったね?」
「あっ」

 ──という感じの、物語です(ではない)。

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担当者コメント

本格ミステリは、まだこんな探偵像が描けたのか!
本格ミステリとは……、ここまで美しいものなのか!
──本作の原稿を最初に読んだ僕の偽らざる感想です。作中の奇想は滝を止め、流れる血はワインに変わる。……そう、これは、まさに神の「奇蹟」を描いた物語です。そして、井上真偽が生んだトリックは「奇蹟の証明」であり、物語内で探偵が目指すのは、「悪魔の証明」でもあるのです。
今、まさに、本格ミステリ界に新たな救世主(メシア)が誕生しました。この傑作を読まずして、今年のミステリは語れません!

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書店員さんコメント

こんなミステリが存在する、その可能性は考えていなかった 紀伊國屋書店ゆめタウン徳島店 朝加昌良さん

こんな構成の、
そして論理のミステリは初めて! 芳林堂書店高田馬場店 飯田和之さん

今まで味わったことのない読後感 三省堂書店有楽町店 家城恒範さん

奇抜な探偵、
ド派手な殺人。
圧倒的な推理の応酬!
私はこういう本が読みたかったの!!! 東京旭屋書店船橋店
石井千恵さん

キャラクター、世界観、ロジック、クライマックス、ラスト、これらすべてが「いうことなし!」。
“奇蹟”のような傑作。 続編、熱烈希望!! ときわ書房本店 宇田川拓也さん

この作品の存在そのものが奇蹟だろう。 問答無用の面白さに脱帽だ! 三省堂書店営業企画室 内田剛さん

全ての可能性を 退けた先にある奇蹟。
この探偵なら
奇蹟を証明してくれるかもしれない! SHIBUYA TSUTAYA
内山はるかさん

探偵・ウエオロさんと
フーリンとの漫才(!?)が面白すぎます! 書泉ブックタワー
江連聡美さん

ミステリの神様が いたとしたら、その神へ挑戦するミステリ MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店
 勝間準さん

「その可能性はすでに考えた」とは
登場人物のみならず、読者に対しても次元を超えてつきつけてくる探偵からの挑戦状 うつのみや 野々市上林店 河口志帆さん

「奇蹟」があらわれるまでウエオロの「その可能性はすでに考えた」というセリフを聞いていたい 紀伊國屋書店横浜店
川俣めぐみさん

どの謎解きでも一作品できるんじゃないかと思うほどのトリック。なんて贅沢な本! 紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さん

トリックがトリックを覆していく…… 書泉グランデ 近藤茂樹さん

『占星術殺人事件』
を読んだときの
驚きの再来
ブックファースト
渋谷文化村通り店
諏訪公太郎さん

これは理論的かつ、現実的に奇蹟を立証する
まったく新しいミステリである ヤマダ電機テックランド札幌本店
書籍コーナー
 十河真奈美さん

こんなにも多くの仮説が
出てくるミステリが、かつてあったろうか? ブックファーストレミィ
五反田店
 田浦靖子さん

魅力的な登場人物たち、
美しすぎるミステリに惹き込まれました MARUZEN
名古屋本店
竹腰香里さん

新世代安楽椅子探偵の誕生です!! HYPER BOOKS かがやき通り店
長岡洋樹さん

謎を解き明かして欲しいのに、謎であって欲しいという矛盾が起こる不思議な一冊。 若草書店八木駅店
平田有子さん

思わず二度読み、三度読みしてしまう、
とても手の込んだ、骨のあるミステリ 紀伊國屋書店ブランド事業推進部 福田志摩さん

久しぶりに面白い!! と思える本格ミステリに出会った 東京旭屋書店池袋店
堀内恭さん

美しい演劇、
舞台を見ているような感じ
文教堂書店西葛西店
水野知博さん

何度目かのミステリブームの再来、それを予感させる作品 田村書店吹田さんくす店 村上望美さん

感心と驚嘆と、そして胸のつかえがおりたような清々しさを味わった
紀伊國屋書店横浜みなとみらい店 安田有希さん

数多の可能性を打ち立てては突き崩し、その果てに証明される事象の美しさと、そこに至るまでに繰り広げられる「論理」の愉しさよ!! ジュンク堂書店池袋本店 矢部公美子さん

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読者モニターコメント

次から次へと行われる推理合戦やそれを纏め上げる構成もさりながら、膨大な知識で裏打ちされた外連味に、ただただ圧倒されました Nさん 10代男性

論理よりも、答えのない奇蹟を信じたくなるミステリーは初めてですOさん 20代女性

ミステリの論理的な推理部分だけを煮つめて結晶にしたような作品
安楽椅子探偵ものにありがちな推理合戦を逆手にとった構成は見事! Hさん 30代男性

面白い!
探偵をはじめ、個性のある魅力的なキャラクターでぐいぐい引き込まれる Yさん 40代女性

ひとつひとつの推理勝負も濃厚でしたが、それらが集合した最後の論争は、もはやどこまでが意図的なのか。それとも論理を積み上げていくうえで必然的に生まれた奇蹟なのか、すごすぎて鳥肌がたちましたSさん 20代女性

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