『神の時空-貴船の沢鬼-』
著者:高田崇史
定価:本体960円(税別)
『神の時空』第3弾「貴船の沢鬼」のメインテーマは、京都・貴船神社と丑の刻参り、そして鞍馬寺です。
現在の貴船神社は、日本有数の「縁結び」の神様となっているようです。
しかしその一方では遠い昔から、相手の男を呪う「丑の刻参り」の神社としても有名でした。ということは、この神社は「縁結び」と「縁切り」の相反する両方の願いを聞き入れてくれる神社ということになります。
では、なぜ貴船神社が、そういった女性たちのさまざまな願望を引き受けてくれる(と考えられる)ようになったのか。そこには、貴船のどんなに深く悲しい歴史が隠されているのか……という、ぼくのいつも変わらぬテーマに沿った話です。
そして今回は、宇治・下鴨・上賀茂・鞍馬・貴船と、京都の南から北へ追ってみました。ちなみに全て、ある一人の女性に関わっている場所です。皆さまも、彼女の鎮魂の旅にご一緒していただければと、心より願っています。
なお鞍馬寺に関しては謎を1つだけ、あえてそのまま残しておきました。寺に直接尋ねても「さあ、ちょっと分かりかねます」という回答だけが返ってくる「謎」です。ぜひ、そこに隠されているであろう歴史を想像して、深慮勘考お願い申し上げます。
また今作中では、辻曲家の飼い猫・グリザベラの、何やら隠された過去が少しだけ顔を覗かせます。昔、彼女(?)に一体何があったのか……。
続く第4弾は場所を奈良に移して、卯の花の匂う頃にでも皆さまにお届けできればと鋭意執筆中ですので、これからもよろしくおつき合いください。
高田崇史(たかだ・たかふみ) 昭和33年東京都生まれ。明治薬科大学卒。『QED 百人一首の呪』(講談社ノベルス)で、第9回メフィスト賞を受賞しデビュー。著作に「QED」シリーズ、「カンナ」シリーズ、「鬼神伝」シリーズ(2011年アニメ映画化)、「千葉千波の事件日記」シリーズなど。近作に『軍神の血脈 楠木正成秘伝』がある。
都で次々に起こる殺人事件。しかも、犯人は……般若や鬼!?
高田ミステリの真骨頂であるスピード感は本書でも健在で、冒頭から緊張感はマックスです。摩季を甦らせようと奔走する辻曲兄妹たちと、それを阻むかのように策動する高村皇。そして、次第に明らかになってくる橋姫伝説の、あまりにも悲しい真実――。
私も本書の舞台となった貴船・鞍馬の取材に同行させて頂きました。しかし、8月の暑さにやられて終始バテバテ。滝のような汗をかき、休憩時にはコーラをガブ飲みするという神妙さのかけらもない状態となりました。
しかし、貴船の流れから吹き上がる冷気を浴びたときは驚きました。クーラーの冷気よりも冷たく、一気に汗が引いていくのです。昔の人々が、貴船に〝何か″を感じた理由が、わかったような気がしました。
12月にもかかわらず、冷たい話で申し訳ありません。しかし、怨みを抱いて亡くなった者への畏れ、そしていたわり――高田作品すべてに通底するそんな思いが、本書にも強く溢れていると感じています。読後には、きっと温かい気持ちになるはずです。どうぞ、『神の時空 ―貴船の沢鬼―』をお楽しみください。
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伝承上の存在の常として、「宇治の橋姫」も様々な側面を持っています。しかし、人々が「宇治の橋姫」と聞いてまず思い浮かべるのは、嫉妬に狂い鬼となった女の姿ではないでしょうか。
──嵯峨天皇の御代に、ある公卿の娘がいた。「鬼となって妬ましい女を殺したい」。そう願った女は貴船神社に籠もって祈り続けた。すると、神は「鬼になりたいのなら、姿を改めて宇治川に二十一日間浸かれ」と告げた。女は都に帰り、長い髪を五つに分けて角を作り、顔には紅をさし、体には丹を塗った。鉄輪を逆さにして頭に載せて松明を燃やし、また別の松明を口にくわえて両端に火を付けた。そして、その姿で二十一日間宇治川に浸かったところ、鬼女となった。これが「宇治の橋姫」である──
(『平家物語 剣巻』より抜粋、要約)
「宇治の橋姫」(鬼女)になるために、女が行った奇怪な儀式。これが、「頭にロウソク、手には五寸釘と藁人形」という、「丑の刻参り」スタイルの原型となったといわれています。
そして、この「宇治の橋姫」伝説をもとにして、室町時代に作られたのが、有名な謡曲『鉄輪(かなわ)』です。嫉妬に狂って鬼女(橋姫)となった女が、夫と夫を奪った女を呪い殺そうとしますが、陰陽師・安倍晴明によって撃退されてしまう……というのが『鉄輪』の大まかなあらすじです。
左上の絵は、この『鉄輪』で使われる橋姫のお面のひとつです。(当初、担当編集者はイラストレーターの日田慶治氏に、このお面を本書のカバーイラストに描いてほしいと依頼しておりました。ところが、途中の段階であまりにも恐ろしいイラストとなっていたため、カバーに橋姫のお面を描くことは断念、あえて普通の「小面」をもとに作画して頂くことになりました。そうして出来たのが、今回のカバーです)
それにしても、一人の女性を、「橋姫」という、ここまで恐ろしい存在に変えた理由は、本当に嫉妬だけであったのでしょうか?? その答えは、ぜひ本書を読んで確かめてください!
『神の時空―貴船の沢鬼―』
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