『無貌伝 ~最後の物語~』
著者:望月守宮
定価:本体900円(税別)
人と"ヒトデナシ"と呼ばれる怪異が共存している世界――。
怪盗・無貌によって「顔」を奪われた仮面の探偵は、
再起を求めて無貌を追い、楽園の島にたどり着く。
その頃、秋津の妻の遥は、「顔」にゆかりある人々のもとを
訪れている無貌を待っていた。彼を殺す覚悟を固めて。
すれ違う思惑の果て、彼らを待つのは希望か、絶望か……!?
失ったモノを取り戻すため、彼らの最後の戦いが始まる!
まずは6年間、全7巻におよんだシリーズを完結、お疲れ様でした!
今の心境は?
呆然としています。執筆中は「完結したら、『やりきった感』を満喫してやる!」と思っていたのですが、いまだに『やりきった感』は湧いてこないです。自分に騙された気分。
第6巻『無貌伝 ~奪われた顔~』、第7巻『無貌伝 ~最後の物語~』と、怒涛の2ヵ月連続刊行でした。どのようなスケジュールで執筆されたのですか?
ふだんは、(1)アイデア出し、(2)プロット作り、(3)執筆、(4)改稿と段階を踏んで書きます。『奪われた顔』『最後の物語』は内容的に繋がりが深いため、2つセットで(1)→(2)→(3)→(4)と進めるつもりでした。ところが『最後の物語』が(2)で詰まってしまい、なかなか解決できないため、しかたなく『奪われた顔』だけ先行で(2)→(3)→(4)と進め、『最後の物語』はその後で(2)をすっ飛ばして(3)→(4)と書く羽目に陥りました。
メフィスト賞を受賞してのデビューですが、メフィスト賞を選んだ理由は?
・編集者のコメントを必ずもらえるから。小説は書きっぱなしで上達するほど甘いものではないだろうと思いましたし、必ずコメントをもらえる賞というのは当時他になかったと思います。
・締め切りがなかったから。締め切りを気にせずに、どの作品でも自分が納得いくまで手を入れられるというのは魅力的でした。
・メフィスト賞受賞作が好きだったから。これが一番大きな理由かもしれません。
「このメフィスト賞ってのを取ってる小説は面白いのが多いな」「尖ってる受賞作が多いけど、応募要項まで尖ってるな」「へー、副賞のホームズ像にはそんなエピソードがあったのか」「……俺も欲しいな」みたいな流れです。
最初に本になった『無貌伝 ~双児の子ら~』を見たときの感想は?
「あ、本当に本になってる」と思いました。実は、一番感動したのは本の実物を見た時ではなく、伊藤真美さんのかっこいいカバーイラストを見た時と、あと意外なことに、ゲラで扉を見た時です。見慣れた講談社ノベルスの扉に作品名と自分のペンネームが書かれているのを見て、「自分の小説が本当に講談社ノベルスの一列に加わるんだ」と実感しました。
シリーズ中、一番難産だった作品は?
最終作の『最後の物語』です。登場するメインキャラクターが全員異なる考えや目的を持って行動するので、わかりやすく整理するのが大変でした。結局、どうしても必要不可欠なキャラクター以外は極力登場させないようにしました。
書こうと思っていて、書けなかったエピソードなどはあるのでしょうか?
シリーズのどこかで、溝口が主人公で警察の立場からヒトデナシの事件を追う話、岬が主人公で作家の立場で各地方のヒトデナシ事件を聞く話、などを入れようかと考えていました。
執筆中の思い出に残るエピソードがあれば、是非。
2週間ほど入院していた時期がありました。『最後の物語』の後半、書くのが難しくなってきたあたりだったので、期せずしてカンヅメみたいな状態になり、結構助かりました。
まだ『無貌伝』シリーズを未読の方に、『無貌伝』の読みどころを!
探偵や怪盗が出てくる懐かしい世界観、妖怪のような精霊のような存在「ヒトデナシ」が登場する少しだけずれた非日常、そして一冊ごとに異なる読み味といったところでしょうか。
第6巻『奪われた顔』では驚くような仕掛けを用意しています。気になる方は第6巻を最初に読んでいただいても結構です。最終巻以外はどういう順番で読んでも楽しめるように書いています。
10月刊行の『無貌伝 ~奪われた顔~』は、まさかの展開に、読者の方々の感想も大盛り上がりでした。あの構想は最初からあったのでしょうか。また、読者の方々が再読する際に、気をつけて読んで欲しいところなどはございますか?
構想は最初からありました。むしろ、こんなベタベタなトリックでも、じっくり時間をかけて仕込んだ後、劇的に真相解明すれば面白いんじゃないか、というのが無貌伝を思いついたきっかけです。
伏線が多いのは、第1巻『双児の子ら』と第3巻『人形姫の産声』、あとは第4巻『綺譚会の惨劇』の中の短編「無情のひと」「実験動物の幸福」だと思います。『双児の子ら』と「無情のひと」では探偵事務所内の、ある家具の配置が異なります。『人形姫の産声』では無貌が特殊な状況下でしか登場しません。「実験動物の幸福」では最後にもう一つの真相の可能性が示唆されています。また、『人形姫の産声』と「実験動物の幸福」でのみ、溝口があるキャラクターを別の呼び方で呼びます。
上記のものは大きな伏線ですが、細かい伏線となると、私も全貌を把握していません。読めば気づくようなものがたくさんあると思います。
今後の執筆のご予定は?
まだ構想を練っているところですが、早めに本を出したいと思います。ジャンルは、現時点ではファンタジーに気持ちが傾いていますが、まだ未定。『無貌伝』を通じてノウハウを蓄積できたと思うので、『無貌伝』よりかなり面白くなる予定です。
最後に、読者の方に一言!
シリーズを完結させることができたのは皆様のおかげです。
本当にありがとうございました!
「旧家で起きる連続殺人」「バラバラの遺体を運ぶ謎の包帯男」「姿を現さない当主」みたいな怪奇小説じみた要素が書いてて楽しかったです。デビュー作なので今見ると稚拙な点が多いですが、終盤のカタルシスという点だけ見ると、案外この作品が一番よくできているかもしれません。