日本海側に位置する、とりたてて特色のない雪国・X県。
地産地消の食べ物、整った子育て環境、健康長寿。X県を彩る言葉は女たちを縛り付けて、放さない。
30歳の蒼子(そうこ)は、代々X県に土地を持つ家の一人娘。夫と2人きりで、自らの実家で穏やかに暮らしていた。彼女が自分の姿を重ねるのは、隣家を守り続けてきた番犬トウマ。年老いたトウマは、飼い主の母娘に虐(しいた)げられていた。蒼子はまだ知らない。彼女を取り巻く人々の悪意が、幸せの裏で膨れあがっていることを。「隣犬トウマの破顔」ほか
X県で暮らす6人の女性の幸せの歪みを描く、連作小説。
担当者コメント
「X県にだけは足を踏み入れるものか。こんな田舎いやだ! でも、ありそう……あるのかも……?」と、初めてこの物語を読んだとき、その不気味さに心がざわついたことが忘れられません。そして、読んでいるときは終始、怖さとおもしろさに原稿を置くことができませんでした。怖いだけではない、爽快さを持った物語なのです。また、女性の息苦しさや葛藤も描き込まれていて、共感する部分もたくさんありました。この濃密な小説の装丁に、イラストレーターのさやかさんが、ゾクゾクするすばらしい絵を寄せてくださいました。読後見ると怖さ倍増です! ぜひお手にお取りください。