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『双孔堂の殺人 〜Double Torus〜』周木 律|講談社ノベルス

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『双孔堂の殺人 〜Double Torus〜』周木 律メフィスト賞受賞シリーズ第二弾!容疑者は名探偵!?鍵形の館で同時発生した二つの密室殺人事件!『眼球堂の殺人』を超える驚愕のトリック!新たな“館”の謎を解け!!
著者コメント

「トーラス」――あまりなじみのない言葉だと思います。これは、種数が1の閉曲面を意味する、数学上の用語です。種数とは、平たく言えば「図形に開いた穴の数」のことなので、穴を1つだけ持つ図形を、トーラスと呼ぶことになります。

ですから、五円玉、トイレットペーパーの芯、ドーナツ、これらはすべて、トーラスである、というわけです。

さて、今回、変人数学者・十和田只人が巻き込まれる事件は、「ダブル・トーラス」なる名前を持つ建物で起こります。どうしてこの名前かは、作中の図を見ていただければ明白です。しかし、事件の真相はきっと、簡単には明らかになりません。なぜなら、大切なこととは得てして目には見えないものだからです。

変な建物。数学。そして、本格ミステリというフォーマット。この『双孔堂の殺人』には、僕が好きな要素をつぎ込みました。

何度もダメ出しをくらい、何度も書き直しましたが、その辛ささえも楽しいと思える執筆でした。
なにより、デビューしてすぐに、こうして2作目を出せることは、書き手として本当に幸せなことだと実感しています。

みなさんにもぜひ、『双孔堂の殺人』を愉しんでもらえれば幸いです。

プロフィール 周木 律(しゅうき・りつ)
某国立大学建築学科卒業。
第47回メフィスト賞を
『眼球堂の殺人〜The Book〜』で受賞。

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担当者コメント

4月に発売されるやいなや、ミステリ読者の話題をかっさらい版を重ねた、メフィスト賞受賞作『眼球堂の殺人』から4ヵ月……。新たな館とともに、 十和田先生が帰ってきました! 今度の館は、二つの孔が空いた、鍵形の館!

そこで同時発生する密室殺人。そして、その犯人として警察に捕まるのは……あの人!? 前回とは、また一味違った端正かつ、力強いトリックには、驚かされること間違いなし。進化する作家、周木律から目が離せません!!

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HP特別書き下ろし:『双孔堂の殺人〜Double Torus〜』あとがきのあとがき

今般、『双孔堂の殺人〜Double Torus〜』を、
無事リリースすることができました。ありがとうございます。
周木律です。

本作は、題名をご覧いただければ一目でわかるとおり、僕のデビュー作となった『眼球堂の殺人〜The Book〜』の続編です。

結論から言えば、書くのにめちゃくちゃ苦労しました。というのも、『眼球堂の殺人』は、メフィスト賞への応募作として書いたもので、当然シリーズにするといったことなど念頭にはなく(自分内シリーズはダメ! ……メフィスト賞応募者の鉄則です)、だからこそ、お読みいただいた方ならおわかりだと思いますが、てらいもなくああいう終わり方にできたわけです。

それを、さて続編を、そしてシリーズ化という前提で再度考えたとき、これは大変な難題を伴うものとなりました。一体、どんなシリーズにするのか、誰をホームズ役に、誰をワトソン役に据えるのか……。

思案の末に絞り出した苦肉の策が(というより、それ以外に方法がなかったのですが)新キャラクターを登場させることでした。それが、宮司司(ぐうじつかさ)という警察庁キャリアの男です。キャリアといえば、国家公務員試験?種(今は総合職試験というのでしたっけ?)を通過したエリート。宮司司もまたそんなエリートの一人なのですが、彼は出世することにさほど興味はなく、むしろそれとは別の意思に基づき、霞が関で鬱々と仕事をするよりも、現場に首を突っ込んでいくことを望んでいるような、キャリアとしてはちょっと変わった男です。

一方、前作の主人公である放浪の数学者、十和田只人(とわだただひと)も、眼鏡の不安定さとともに健在です。十和田只人と宮司司、この二人のむさい男どもが、二層の外観を持つ奇妙な館「ダブル・トーラス」で起こる事件や因縁に巻き込まれていくさまを、是非ともお楽しみいただければ幸いです。

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周木律さんによる猫にもわかる?位相幾何学案内

こんにちは、周木律です。

8月6日に僕の2作目「双孔堂の殺人〜Double Torus〜」がリリースされました。

この作品には、位相幾何学(トポロジー)という、日ごろあまりなじみのない数学にまつわる概念や逸話がいくつか出てきます。もちろん、予備知識がなくとも読めるようにはなっていますが、一方で、あらかじめ知っておいていただければより楽しめる部分も多くあると思います。というわけで僭越ながら、この場を借りて、位相幾何学について、ちょびっとだけお話をしたいと思います。

1. 球面とトーラス
のっけから話が逸れてしまうのですが、分類学というものがあります。
これは、生物をさまざまな特徴から分類、種別しようという学問です。生物を個ではなく、種として理解しようとするもので、進化論の理解にも大きく役立っています。分類学の効能は、言うまでもなく、分類することでばらばらの個が系統別にまとまり、これが大局的な理解を促進するという点にあります。

生物学だけでなく、数学でも、この「分類する」という行為はとても重要です。

例えば、3本の直線で囲まれた図形は「三角形」に分類されます。本当は、それぞれをみれば正三角形、直角三角形、二等辺三角形などいろんな種類があるのですが、どれも「辺・頂点が3つずつ」という共通項を持つので、これらを「三角形」というカテゴリに入れ、理解をしやすくするわけです。

さて、では立体図形に関する分類にはどんなものがあるでしょうか。

ひとつには、立体の面の数で分類する方法があります(○面体など)。あるいは、頂点の数で分類する方法もあります。ただ、これらの分類では、球のような曲面をもつ立体が分類できないという欠点があります。

そこで、数学者はこう考えました。図形が粘土のようなものでできているとして、頂点や辺やくぼみを均してしまえるとすれば、図形固有の特徴が浮き彫りになるのではないか?

湯呑み、コーヒーカップ、やかんを例に取ります。

本来、これらのものはセラミックや金属でできているものですが、今はこれを粘土でできていると仮定して、形を均していきます。すると――。

球、ドーナツ型、穴が2つのドーナツ型になりました。

それぞれを区別するのは、見て解るとおり穴の数です。つまり、立体図形を分類するには「穴の数」がひとつの手掛かりとなっているということが解るわけです。

このような考察などから、位相幾何学という数学は生まれていきました。

位相幾何学では、球は「球面(sphere)」ですが、ドーナツ型の図形は「トーラス(torus)」と呼ばれています。また副題にもなっている「ダブルトーラス(double torus)」は、穴が2つのドーナツ型のことです。『双孔堂の殺人』には「ダブル・トーラス」という建築物が登場しますが、作中の俯瞰図を見ていただければ、命名の由来がお解りいただけると思います。

ところで、次のような図形は、形を均すとどんな図形になると思いますか。トーラス? ダブルトーラス? それともトリプルトーラス? (答えは最後に。)

2. メビウスの帯とクラインの壷
位相幾何学には、そのほかにも、「メビウスの帯」「クラインの壷」というとても有名な図形が登場します。

メビウスの帯は、テープを半回転ひねって輪っかにした図形で、表を進むといつの間にか裏になり、裏を進むといつの間にか表になる、裏と表の区別がないという性質があります。『双孔堂の殺人』に出てくる「ダブル・トーラス」も、一階と二階を交差する階段で連結しています。主人公は、この一階と二階で進行方向が入れ替わるさまを見て、メビウスの帯を連想します。

クラインの壷はその立体版です。自己交差するため3次元空間でつくることはできませんが、やはり裏と表の区別がないという性質を持っています。

ちなみに、メビウスの帯を幅広にして、そのふちを貼りあわせると、クラインの壷になります。

3. ポアンカレ予想とペレルマン
さて、位相幾何学において、最大の難問とされていたのは、なんといっても「ポアンカレ予想」です。

この予想は、ポアンカレというフランスの数学者が1904年に提起した問題で、実に100年もの間、未解決問題として世の数学者を悩ませてきました。

問題は、実にシンプルです。
「単連結な3次元閉多様体は、3次元球面に同相か?」

シンプルと言いつつ、単連結とか多様体とか数学用語が出てくるので、訳が解りませんよね。そこでここは思い切って、こんな風に問題を(ものすごく乱暴ですが)言い換えます。「ある空間に張られた『ひとまわりのロープ』を、いつも1ヵ所で回収できるなら、その空間は『球面』だと言っていいか?」

例えば、球面の上に立つ人が、ロープ(輪)を回収するとします。ロープがどのように張られていても、この人は必ずロープを回収することができます。

ところが、トーラスの上に立つ人がロープを回収するとき、必ずロープが回収できるとは限りません。ロープに穴が引っ掛かることがあるからです。

これらのことを踏まえると、どんなロープでも常に回収できるなら、その場所は球面なのではなかろうか? という考察が成り立つわけです。

これこそがポアンカレ予想です。どうです、シンプルでしょう?
ですが、シンプルであるほど難解になる他の問題(フェルマーの最終予想やゴルドバッハ予想)と同様、ポアンカレ予想も、多くの数学者たちの人生を振り回した挙句、解決したのはようやく2006年のことでした。

ポアンカレ予想を証明したのは、ロシアの数学者、ペレルマンでした。

ペレルマンはずいぶんと(十和田先生並みに)変わった人です。

例えばポアンカレ予想には、なんと100万ドルの懸賞金がかかっていました。当然、証明を果たしたペレルマンはこの大金を受け取る権利があったのですが、彼はこれを辞退してしまいました。

金銭だけではなく、ペレルマンは、数学界のノーベル賞ともいわれる「フィールズ賞」さえも辞退していました。金銭も栄誉も放棄してしまったわけです。

そんな彼が今何をしているかというと、勤めていた研究所を辞め、趣味のきのこ狩りをしながら、母親の年金と貯金とで細々と暮らしているのだそうです。数学者には無欲な人も多いですが、ここまで極端な人も珍しいかもしれません。

4. 最後に
数学というととかく「小難しい」印象ですが、さまざまな手掛かりをもとに解へと進んでいく爽快感を持った学問です。これはまさに、謎を解くことをテーマとした推理小説と同じものじゃないかと思います。

このコラムを読んでいただいた皆さんにも、その爽快感を味わってもらいたい――そんな気持ちで小説を書いていますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

図2の答えを見る
 あ、最後に図2の答えを。答えは「ダブルトーラス」でした。
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