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『妖精の墓標』松本寛大|講談社ノベルス

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日本⇔アメリカで繰り広げられる驚愕の本格推理!  横溝ミステリーへの、超新星からの挑戦! 『妖精の墓標』松本寛大
『妖精の墓標』松本寛大

『妖精の墓標』
松本寛大

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 信州の名家、新羽家の先代、堂市が変死。東京から葬儀に訪れた孫の医師、桂木優二は、自殺と判断されたその死に、不審感を抱く。葬儀の直後、遠縁の画家、滝見伸彦が転落死。さらに新羽家当主の妻、佳織が失踪する。生前の滝見が白昼夢のように見ていた「妖精」に、連続する事件解決の鍵があると考えた桂木は、米国ボストンに暮らす心理学者のトーマ・セラに調査への協力を依頼する。トーマは「妖精」の真実に辿り着けるのか?

著者コメント

 この作品をそもそもどうやって書き始めたのか記憶があやふやでしたので、調べてみますと、古いメモが見つかりました。当初のアイデア自体は二、三行のものでしたので、そこから単行本一冊ぶんまでふくらませたことになります。メモには、ぽつんと、真相の構図だけが書かれていました。
 それを核に、オーソドックスな舞台を用意し、ちょっぴり現代らしい意匠を施し、奥底深く「いまこの作品を書くこと」に対する自身の思いを埋め込みました。
 アメリカ在住の心理学者トーマが主人公のシリーズ第二弾ですが、前作を知っている必要はありません。堅苦しいことは抜きに、古典的なミステリーとして楽しんでいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

著者プロフィール
松本寛大(まつもと・かんだい)
1971年、北海道札幌市生まれ。2008年、『玻璃の家』(2009年講談社刊)で第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。

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担当者コメント

「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作家、松本寛大さんが講談社ノベルスに初登場! 膨大な資料を自在に操って物語を組み上げる松本さんの作風は、まるで精密時計のよう。本作品は、信州の旧家で起こった変死、失踪事件の謎に、海を越えたボストンに暮らす心理学者、トーマが挑みます。斬新な推理と論理、そして作品全体に流れるもの悲しいトーンに、ページをめくらずにはいられなくなります。本格ミステリの真髄を、ぜひお楽しみください!

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一問一答

今回の『妖精の墓標』の着想のきっかけを教えてください。

あまり覚えていないのですが、たぶん、「コティングリー妖精事件」からだと思います。二十世紀初頭のイギリスで、とあるいとこ同士の少女が「妖精を写真に撮った」と言いだし、これが大騒ぎになってしまうという実際にあった出来事ですね。
晩年、ねつ造写真だったことを自ら口にした彼女たちは、しかし、自分たちは本当に妖精を見たのだと証言します。彼女たちは自らがついた嘘に飲み込まれていったのかもしれません。そう考えると、なんとも言えない重いものを感じます。着想のきっかけはそのあたりだったように思います。

執筆期間はどれくらいでしたか?

途中で担当編集者さんが替わるくらい長期です。すみません本当にすみません。

画家・滝見伸彦のキャラクターがとても印象的でした。このキャラクターのアイデアは、どこから生まれてきたのでしょう。

画家の物語というのは構想の早い段階で決まっており、そのころは、ヘンリー・ダーガーを意識していました。もちろん、当時はいまとはまったく違うストーリーです。プロットを練るうちに、「非現実の空想家」という設定だけが生き残った形ですね。

前作『玻璃の家』に続いて、今回の『妖精の墓標』も巻末の膨大な参考文献が目をひきますが、資料はどこであたるのでしょうか?

大学図書館、市立図書館、ネット、書店、古書店。つまんない答えですみません。

今作で、最も苦労された点は?

執筆に時間がかかると、「これはつまらないんじゃないのか」という自分との戦いが始まります。そうなるとダメですね。

どんな方に読んでほしいでしょうか?

誰にでも楽しんでもらえるものをと思って書いていますが、特に古典的な本格ミステリーが好きな方には読んでいただきたいです。

『妖精の墓標』を一言でいうと、どんな作品でしょうか?

メインのアイデアは派手なトリックでも意外な犯人でもなく、真相の構図とそこへ至る過程です。そうした部分をお楽しみいただければ。

ご出身はどちらでしょうか?

北海道札幌市。

小さい頃の読書体験を教えて下さい。

『怪人二十面相』に出会ったあとはよくあるパターンで、小学校の図書室にあった児童向けミステリーを読み終えたら区民センターの図書室へ、そこにあるものを読み尽くすころには児童ものに飽きているので、あとは市の図書館へ通い詰める日々です。
小学生のころ特に好きだったのは、小説では『僧正殺人事件』や『Xの悲劇』『パノラマ島奇談』『化人幻戯』など。小説以外では『ミステリイ・カクテル―推理小説トリックのすべて』『シャーロック・ホームズ―ガス燈に浮かぶその生涯』。ミステリーと無関係なところでは『ファーブル昆虫記』。
それまではミステリー一辺倒だったのですが、中学に入るとホラー小説へ傾倒していきます。『怪奇小説傑作集』の「ダンウィッチの怪」でラヴクラフトを知ったのもそのころだったような。あと、ゲームブックには膨大な時間を使いました。

幼少期の松本少年は、どんな少年でしたか?

本とテレビが好きでした。

青春期を一言で言うと。

恥の多い生涯を送って来ました。

デビューのいきさつを教えてください。

もう何年前になりますか……近所の書店で柄刀一先生の講演会がありました。サインをいただく際、「実は自分もかつてミステリーを書いたことがありまして」とお話しすると、「いまは書いていないんですか。それはもったいないなあ。短編ならどうです。どこどこに投稿するといいですよ」というような話をしてくれたんですね。
誰かのそんな一言で、案外人間はがんばれるものです。そのすぐあとに私淑する島田荘司先生が新人賞を立ち上げたというニュースが飛び込んできました。これは何かの天啓だと思い、書いて投稿したのがデビュー作です。

デビューしてから一番思い出に残っていることは何でしょうか?

デビュー作を刊行するにあたっては改稿が条件だったのですが、急にそんなことを言われても、アイデアがどうにも出ません。
新幹線の中で、打ち合わせの食事の席で、ホテルのロビーで……島田先生に思いついたアイデアを次々に話しますが、すべて没。オッケーが出たのは、記者会見控え室、それも会見開始5分前でした。あのときは「これで書ける」と思いましたね。
あの手の、アイデアが舞い降りる瞬間というのはそうそうあることではなく、ちょっとほかとは比べられない、形容のできないうれしさです。

最初に小説を書いたのはいつ頃、どんな作品でしたか?

小学校2年生のとき、作文用紙に。内容は少年探偵団そのまんまです。

影響を受けた作家は?

以下敬称略で。
ミステリーでは江戸川乱歩、横溝正史、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー、鮎川哲也、島田荘司、栗本薫。マンガでは手塚治虫、藤子不二雄、楳図かずお、萩尾望都、長谷川裕一、高橋葉介、諸星大二郎。
ミステリー以外でひとりあげるなら、リチャード・マシスンだと思います。どうにかして全作品揃えたいんですが、雑誌に掲載されたきりの短編などは入手が困難で参っています。

影響を受けた作品は?

『玻璃の家』『妖精の墓標』は、コンセプトとしては鮎川哲也先生の鬼貫ものの影響が顕著だと思います。また、当方の描く探偵トーマは市川崑監督の描く金田一耕助、亜愛一郎、『絃の聖域』『仮面舞踏会』の伊集院大介を意識しています。

好きな映画、音楽など教えて下さい。

『オズの魔法使』とその続篇『オズ』『伝説巨神イデオン(発動篇)』がベストスリー。ほかには『ヘルハウス』『チェンジリング』『サンタ・サングレ』『ザ・ブルード』『赤い影』『ウィッカーマン』『柔らかい殻』『悪を呼ぶ少年』『センチネル』など。あと、ヘンリー・トーマス主演の『クエスト』は偏愛。あれは島田流奇想本格だと言い張っています。
好きな音楽は、邦楽では山下達郎、中島みゆき。それに奥井亜紀。あとは70年代のロック全般。

最近観て、よかった映画、TVドラマなどは。

洋画は『回転』(古い作品ですが最近観たので……)、『ぼくのエリ 200歳の少女』、『ホビット 思いがけない冒険』。邦画は『ぐるりのこと。』、『その街のこども』、『SR サイタマノラッパー』がよかったです。
TVは時間がとれず、見ることができません。時々、子供と一緒にアニメを見る程度です。アンパンマンやプリキュア、ポケットモンスターなど。『ぷるるんっ!しずくちゃん』はすさまじくシュールで、たまに見ると度肝を抜かれます。幼児番組すごいなあ。

執筆スタイルを教えて下さい。

手帳、スケッチブック、コピー用紙、原稿用紙などに万年筆でアイデアを書きなぐったのち、大学ノート上でさらに考えを深めていきます。
ノートは記録用ではなく、アイデアを広げたり、深めたりするのに用います。要するに下書き用紙で、読み返すことはほとんどありませんが、一応捨てずにとっておきます。『妖精の墓標』はアイデアを固めるのに大学ノート5冊を費やしました。
執筆はノートパソコンが多いです。親指シフトユーザー。ざっと15年ほど、QXエディタを使っています(最近NewQXにしました)。図書館、ファミレス、マンガ喫茶、ハンバーガーショップなどを転々としながら書いています。

執筆中、欠かせないアイテムは何かありますか?

執筆場所は騒々しい場合も多く、iPodは欠かせません。遮音性の高いヘッドホンでアンビエントなどを聴くことが多いです。

最近、ハマっていることは何かありますか?

ボードゲーム。子供とやっているのですが、ウボンゴはおもしろいです。あれはおすすめ。カルカソンヌはちょっとまだルールが難しい。とりあえずタイルを並べておもしろがっているようですが。

今後挑戦したいテーマ、舞台などあったら教えてください。

ニューロティック・スリラーとホラー。
自分に書けるかどうかもわからない夢ということで言うなら、児童向けのミステリーかホラーです。

読者の方々に一言!

どうぞ楽しんでください。いまはそれだけです。

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既刊リスト

『玻璃の家』

『玻璃の家』 単行本 島田荘司選 第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作
「一読、この作はもう充分に傑作の領域にあると感じて、このような高度で緻密な本格ミステリー作品が、福ミスのような地方の小賞に投じられてきたことに感謝した」――選評より

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『古事記異聞 京の怨霊、元出雲』高田崇史 『またね家族』松居大悟 『修羅の家』我孫子武丸 『#柚莉愛とかくれんぼ』真下みこと 『希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿』山本巧次 高田崇史ONLINE