古今東西の秘密をはらんだ本にまつわるエピソードを、虚実交えてミステリアスな物語にした「書物」シリーズ。大好評のシリーズ4作目は、初めての長編です。
ストックホルム、アメリカ、ベルリン、ロンドン、中東と舞台は目まぐるしく変わり、世界中を舞台にしたまさに長編ならではの読み応え溢れる作品となっています。そして書物狩人(ル・シャスール)が因縁の宿敵、書物偽造師(ミスター・クラウン)と真正面から激突し、互いに裏の裏をかく駆け引きの応酬が繰り広げられます。さらにアルカイダに渡った謎の書物が「報復テロ」へと繋がり……と中身はてんこ盛り! 愛書家のみならず、愛書家でない方も必読の書です!!
今作『書物幻戯』の着想のきっかけは?
つぎは長編書き下ろしと決まっていましたので、それにふさわしい大事件を題材にしようというところから考えはじめました。今、何かが起こりそうなところというと、やはり中東か。そうなれば、アメリカが関わらないはずがない。むろんヨーロッパも。加えて、シリーズの性格から、空間的のみならず、時間的な広がりも欲しいということで、遠い昔のことが現在に影響するようにもしたいと、まず大枠をつくって、これを満たすストーリーにしようと、自分に制限を課しました。しかし、そんなお話の前提となる「書物」というと、なかなか難しく、ああでもない、こうでもないと、一月ほど頭を抱えるはめに。けれど、ドイツのある史料集(大急ぎで註釈。この史料集が、今回のル・シャスールの標的というわけではありません)にヒントを得て、一気にブレークスルーすることができました。思わせぶりなもの言いで恐縮ですが、『書物幻戯』をお読みくだされば、このことかとおわかりいただけるかと。
今回の作品中、一番気に入っているシーン、エピソードは?
ヒチコック趣味とでもいいましょうか、いつか作中に自分をモデルにしたキャラクターを出そうとたくらんでおりました。今回、それが実現し、私、というか、私の分身とル・シャスールの会話を書けたことは、とても嬉しく思っています。
もう一つは、やはりクライマックスの、ル・シャスールがあんなところに現れるシーンでしょうか。
「書物狩人」のアイディアはどこから、どのようにして生まれたのでしょう?
ずばり、個人的な願望からですね(笑)。ものを書くような方は、多かれ少なかれそうだと思うのですが、私もご多分にもれず、古書趣味があって、あの本が手に入らないかなあ、こっちの本はないだろうかと、常に夢見ております。いかなる書物、たとえ国家をゆるがすような秘密が記された本であっても、必ず獲得してくれるような誰かがどこかにいないか……。こうして、非常に限定された「ヒーロー」が――ひょっとしたら、そう思っているのは私だけかもしれません――誕生したわけです。
銀髪というル・シャスールのユニークな外見は、どういう経緯で生まれたのでしょうか?
もともと、主人公は、本の精というか、書物のなかから抜け出してきて、人間の営みを冷ややかに見守っているというふうに設定したかったのです。だとしたら、目立たないよう、外見的には極力特徴のない人物にしたい。ゆえに、中肉中背、容貌も平凡(女性ファンからの、彼はもっと美形のはずだという声に抗しかね、しだいしだいに整った顔立ちになりつつありますが)。しかし……さすがに、まったく肉体的な目印がない主人公というのはためらわれ、一点だけ「銀髪」という特徴を付けたのです。もちろん、こういう顕著なしるしをつけたからには、物語の論理として、そうなった理由がなくてはなりません。
それは――まだ秘密。
「書物」シリーズに登場するキャラクター達のなかで、特にお気に入りのキャラクターは?
お話の性格上、出てくるのは、どいつもこいつも腹黒いやつばかりですのでねぇ(苦笑)。とはいえ、『書物迷宮』所収「書庫に入りきらぬ本」の奥方さまなどは、気に入っているかな。精神の背筋がしゃんと伸びた女性は好きです。
「書物」シリーズを書く上で、一番苦労することは何でしょうか?
才とぼしき身としては、何を書いても、ひいひい言っているのですが、このシリーズ特有の苦労が一つあります。『書物狩人』以来、各短編のタイトルは、読み終わったあとに初めて意味がわかる、謎めいたものにしようと決めたのですが、これが悩みの種。本文は完成したのに、うまいタイトルが出ないと悲鳴をあげることもしばしばです。
影響を受けた作家は?
江戸川乱歩先生です。それから、センチメンタリズムという面では、レイ・ブラッドベリにずいぶん影響されていることに最近気づきました。
好きな映画作品は?
たくさんありすぎて、具体的に挙げていくときりがないのですが、西洋の歴史ものが好きです。『ワーテルロー』や『クロムウェル』とかですね。
最近最も気になったニュースは?
月並みですが、やはり原発事故でしょうか。いったい、どのくらい深刻な事態になっているのか、自分、そして日本人はどういう対応をすべきなのか、柄にもなく真面目に考え込んでしまいました。
今後シリーズはどのように展開していくのでしょう。少しだけ教えて下さい。
ル・シャスールがいつも余裕しゃくしゃくなのが、作者としても面白くないので(笑)、ひとつ宿敵ミスター・クラウンあたりに張り切ってもらい、書物狩人を絶体絶命の危機におとしいれてやろうと、陰謀をめぐらせています。その過程で、銀髪の秘密も……。
読者の方に一言。
うんちくとドンデン返しの連続を必ずつけるという、書き手にとっては結構つらい条件のもとではありますが、可能なかぎり、それを守っていきたいと思っています。主人公のル・シャスールも、かなり性格の悪い男ではありますけれど、これからも応援してやっていただければ幸いです。
レディ・Bの“B”は次のどれ?
A:ビューティー
B:ブックワーム(紙虫)
C:ビブリオファイル(書物道楽家)
D:ビースト
ル・シャスールが訪れた、スウェーデンはストックホルムにある有名はカフェの名は?
A:カフェ・ノーベル
B:カフェ・サティール
C:カフェ・ド・フロール
D:ペンギンカフェ
CIA対テロ分析部ボス・ロバート・クーパーのニックネームは?
A:内気なボビー
B:陽気なボビー
C:のんきなボビー
D:陰気なボビー
ル・シャスールがSIS長官・コリン・マーレーに関係文書閲覧の代価として提案したものは次のどれ?
A:イアン・フレミング『カジノ・ロワイアル』初版本サイン入り
B:T・E・ロレンス『造幣所』
C:シェークスピア全集の初版本『ファーストフォリオ』
D:香港最後のイギリス総督・パッテンの密約本
SILABは何の略?
A:第二国際古書籍商連盟
B:南半球情報局古書籍商連盟
C:第六国際古物商連盟
D:米国書家社会的知能連盟