応募先にメフィスト賞を選んだ理由は?
一つは編集者が全て読むということ。次に全ての応募作に、座談会でのコメントなり一行コメントなり、必ず評価をしてくれるということです。
枚数制限なし、締め切りなし、応募したら必ずコメントがもらえる、の三点が魅力的だったから。あと歴代受賞者に好きな作家さんが多かったし。
デビューして明らかに変わったこととは?
原稿に向かっている時間が以前よりもはるかに長くなりました。
投稿時代のように「次は何を書くか」で延々と悩むことがなくなりました。シリーズ物だから当然っちゃ当然すね。
メフィスト賞受賞作で一番好きな作品は?
『QED 百人一首の呪』
好きな作品はいっぱいあるけど、一つ選ぶなら『ハサミ男』。ずっと騙されていたことに気づいた瞬間の、あの全身を貫くような快感ときたらもう。思い出すだけでハァハァしてしまいます。
望月さん、丸山さん、お会いしたことのない二人ですが、お互いにどんな印象をお持ちでしょうか?
望月先生は、独自の世界を創造出来る方だと思います。無貌伝はSFとしても楽しめました。
古今東西の良書、奇書の山に囲まれながら、その中心で岩のようにどっしりと構えて執筆してらっしゃるイメージ。もちろん万年筆と原稿用紙で。時折むんずと手を伸ばし、書の山から自在に読みたいものを抜き取り、しばし読み耽り、また執筆に戻る。きっとそんな方でしょう。
今作を四文字熟語でたとえると?
痛快無比
忘我彷徨
しっくりくるものがなかったので、造語にしてみました。
ここだけは誰にも負けない今作のポイントは?
中国伝説の新解釈と史実の危うい融和。
先の読めない物語展開。中盤以降、最後の数ページまで話が裏返り続けます。
勝手に映画化キャスティング!
希仁―竜雷太さん(「太陽にほえろ!」出演の頃)
残虎―内藤剛志さん(「ヒポクラテスたち」(1980)の頃)
桃姫―こずえ鈴(現フリーディア)さん
陽武―石橋蓮司さん(「浪人街」(1990)の頃)
根 ―山村紅葉さん
困りましたね。俳優さんの顔ってあまり判別がつかないので。
太っちょタレントさんならまだ見分けがつくので、こんな感じでどうでしょう。
望:昔の内山信二、秋津:伊集院光、無貌:マツコ・デラックス
作品について◎ ○ △ ×でお答えください。
*コワい? ○
*エロい? △
*泣ける? ○
*コワい? △
*エロい? ○
*泣ける? ◎
○○な人にこそ、ぜひ読んで欲しい。
中国モノが苦手な人。
無貌伝シリーズを読んだことのない人。今作は時系列上では最初の話なので、今作を読んでから過去の一、二作目を読むのもなかなかにオツなものですよ。
今後シリーズではどんな展開が待ち受けていますか?
狂生と桃姫が、始皇帝の生命を狙い巡幸を追いかけて各地を巡り、土地の伝説的な怪異や謎を解決する話を考えています。二人の馴れ初め、始皇帝配下の武人との対決なども。
三探偵&警察VS. 無貌&魔縁の闘争が激化。主要人物がばんばん死んじゃいます。
今後チャレンジしてみたい題材、テーマは?
徐福やその弟子達が日本に辿り着くまでで、精一杯ですが、余力が出来れば、古代日本を舞台にした物語も書いてみたい。それに、現代の自衛隊を舞台にしたバカミス等も少し。
現代が舞台の学園ものとか。幻想系SFとかも書いてみたいかも。
目標としている作家は?
都筑道夫先生。山田風太郎先生。光瀬龍先生。
特になし。というか、作家を続けることが当面の目標。
水嶋ヒロさんに一言。
実は仮面ライダー時代からファンなので、作家と俳優、両方での御活躍を期待しています。
今からでも遅くないんで、メフィスト賞をとってください。どさくさでぼくらの本も売れるはず、きっと。
最後に、新世代メフィスト大型新人として意気込みを。
新世代と言うには年を食っていますが、感性は若い人に負けたくないと思います。新しい解釈や試みを取り入れた、どの世代にも楽しめる歴史ミステリーを書きたいものです。
これからもマイペースかつ適当に書きたいものを書いていこうと思います。売れれば良いな、くらいのノリで。いや、やっぱ刊行ペースだけは少し上げます。
さて、みなさまこんにちは、司会のγです。今日は文学の香り高きここ、某高級ホテルラウンジより、「新世代メフィスト大型新人を語り尽くす!〜担当PとYによる勝手に座談会〜」をお送りしたいと思います。『無貌伝 〜人形姫の産声〜』担当のYさん、『琅邪の虎』担当のPさん、お願いします!
「山の上」(※幾多の作家が愛した山の上ホテル)でやるって聞いて楽しみにしていたのに、社内の倉庫でやるの? ホワイトボードやら捨て忘れのコピーやら……ただの「ゴミ山の中」じゃない!
さっき21時のチャイム鳴りましたよねえ……。もう編集部に戻っていいですか〜。
だまらっしゃい、あなた方が「メフィスト」校了で寝る暇もないというから、酒場でホッピー飲みながらの「酔いどれ座談会」のはずがこうなったんです! ボージョレー解禁日だっつーのに!
出た〜「琅邪の虎」ならぬ「目黒の虎」γ!
「目黒の姫」と呼ばれた私に何言うの! さあ気分だけでも盛り上げるわよ。ここは高級ホテルラウンジなの、わかった! まずは各作品のメフィスト賞受賞のいきさつから。
『無貌伝 〜双児の子ら〜』。これを最初に読んだのがPさんだったんですよね。でも、選考途中で読んで、これは僕が担当したい! と奪い取って担当することになったんです。
当時は賛否両論あったけど、総じて男性からの支持が高かったから、メフィスト賞に決まったわけで。
望月守宮さんにお会いしたら、「実はこのキャラは今後こうなる」といった先々までの構想があるんです。詳しくは今言えないけど、あと4作分は軽くありますよ。
Yから自分たちの想像を超えた望月さんの構想を聞いて、作家性のある人だなと思いました。でも、それで言えば丸山天寿さんも、そう。すでに長編ネタは50本以上あるんですよ。初投稿作品で受賞して、お二方ともデビュー前から壮大な構想をなされている。新世代メフィスト大型新人のこの二人は意外と似てますね。
では、今回の作品での読みどころ、ポイントは。
今作『人形姫の産声』では、遥という女の子を模した人形が何体か出てくるんですけれど、その幻想的な雰囲気を味わってほしいです。またシリーズを通して重要な役割を果たす「無貌」誕生の謎の一部が明らかになってきます。
それは楽しみ! で、『琅邪の虎』は前作にも増して謎いっぱい、戦いいっぱい。でも、今作の一番の見どころは、ずばり感動! 徐福のすごさがすごーく分かります、出番少なくて、言葉数も少ないのにね。
描かれている人間模様も素晴らしい。それに美女も続々出ます
心をヒトデナシに奪われて、僕に仕事を押しつける「リアル」ヒトデナシPさんを感動させるって凄いですね……(遠い目)。
誰がヒトデナシじゃ。ま、それはともかく、今回実は徐福さんが出る予定はなかったんですよ。
えっ!!
なんだけど、丸山さんが高田崇史さんにお会いしたときに、「いいキャラは作品に出さなきゃ駄目だよ」と。それで史実に基づきながらも、ちょっと改変して……そしたら話も面白く膨らんだわけ。
高田さん、さすが! 「いいキャラは出さなきゃ、駄目」by高田崇史。書いて壁に貼ろう。と、日記には書いておこう。
龍角散のCM? それ分かるのって確実に40オーバーだと思うんですけど、Yって、実は年齢詐称……?
年齢詐称したいのは、私です! ところで丸山さんは執筆速度がすごく速いですよね。
現在、半年に1冊のペースですね。
むむ……。望月さん、年齢的には丸山さんの半分くらいなんだから、もう少し頑張ってもらわないと! 望月さん、この座談会読んでますか〜?
でも、書く情熱があるって素晴らしい!! 作家さんには、そういうリビドーが必要!!
いや実は丸山さん、島田荘司さんの『ベテラン新人発掘プロジェクト』告知をみて、え〜!? 追い越されないようにもっと頑張らないと、って更に燃えてます!
丸山さんは実はメフィスト賞受賞最高年齢ですよね。
そう。56歳とは思えない若さ! 情熱! モーレツ!(←死語だ) 書く速さも然りですが、面白くするために原稿を修正することにも労力を惜しまない。スバラシイですわ〜。
逆に望月さんは、若いのに老成してる(一同笑)。いや、なんていうか物事に全く動じない、非常に肝のすわった大物感のある人です。メフィスト賞受賞の連絡したときも「本当に喜んでる?」って訊いちゃいましたもん。勿論喜んでますよ、って言ってたけど。
それって、担当としてどうなの?
いや、人として凄く好きな方ですよ。どちらかというと僕が勝手に盛り上がってて、向こうが「あぁ、なるほど」みたいな。でも、心の中には熱いモノを抱えているはずです。
では、最後に、シリーズ次作の構想を少しだけ。
これまで出てきたキャラクターたちが集まり「百物語」のように順番に物語る、連作短編の形になる予定。ちなみに、タイトルは『綺譚会の惨劇』の予定です。
こちらも次回作のタイトルももう決まっています。『咸陽の闇』! 不老不死研究をしている徐福と弟子、同じような研究をする者、始皇帝暗殺を目論む者たちの三つ巴の戦いが繰り広げられ、時を同じくして都の咸陽で怪奇事件が続発します。さらには不老不死を願う始皇帝が生前墓の兵馬俑を何故作ったのかという歴史の謎にも踏み込みます!
ということで、大変盛り上がりました「新世代メフィスト大型新人座談会」、いいこころもちになってきたあたりで、PとYさんにサプライズ。Z部長登場です。
こんなところで何してるの!? P! Y! 早く「メフィスト」の校了してもらわないと私が帰れないでしょ!! 人生、逃げちゃダメよ!
γのヒトデナシ〜〜〜〜〜!!
そしてPとYは決して触れてはならない文三の闇へと消えていった──<完>
よく、こんな言葉を聞きます。
『ペットとして飼われている犬は自分のことを人間だと思っている』
ならば、人形はどうなのでしょうか。幼い女の子たちの手で弄ばれている人形たちは、人間と同じ形をした、しかし肉とは異なる素材でできた自分たちのことを、何だと考えているのでしょうか。そして、自分たちが演じているのとは違う生の人間の生活を見て、何を感じているのでしょうか。そんな、人形たちのつるつるに乾いた瞳に映るものが見たい。そういう想いでこの小説を書きました。
この作品の中で人形たちは命を得て、目を覚まします。彼女たちは人形として愛された日々のことを忘れてはいませんが、同時に今何をすればいいかもわかりません。しかしそれは、この小説の主人公である秋津承一郎と岬遥、若き日の名探偵とその妻にとっても同じことです。やがて彼らはみな、自分がどう生きるかという選択を強いられることになります。彼らが何を思い、どこへ向かうのか、見届けていただけたら幸いです。
望月守宮(もちづき・やもり)
2008年、『無貌伝 〜双児の子ら〜』で、第40回メフィスト賞を受賞しデビュー。