
「あけましておめでとうございます。
競技かるた実力制第十代名人の水里あかねです。」
「版元さんは一作でも切るゆうとったけんね。有栖川エコールの勝利や。」
「ほんまや、これも夕子のお師匠先生のお陰やね。みんなもよう頑張った。」
「せっかくの機会なので、本編ちゅうで言い残したことがあったら。」
「ほしたらいうけど、あたしは『インヴェンション』が一番演ってて楽しかったなあ。あたし本格原理主義者やけん、厳密なルールの設定と、それだけを基にしたロジック。最近ちょっと無い本格劇と違う? ファンタジーとロジック。その幸運なマリアージュや。」
「ルールの設定が複雑すぎる、御都合主義的やいう指摘もあったけど?」
「ほらあたしの父さん弁護士やん。あのルールはな、法学系に響く書き方しとるんよ。」
「実はあたしも『インヴェンション』好きなんよ。台詞多いし。運転もできたし♪」
「檜会先輩はずるい。『エチュード』でも『インヴェンション』でも美味しいとこ持ってっとる──楓はどうなん? いちおう楓とあたしは全作品に出演しとるけど?」
「『ノスタルジア』やね。あたし脚本で獄霊島、って舞台の名前読んだとき、作者の正気を疑うた。けど作者思いこんだら編集君のゆうこと聴かんけんね。結果的にもろ横溝なんやけどもろ作者の味も出とる。あたしの青春物語もよう書いてくれたし。いまどき読者への挑戦状、3回も4回も出すなんてアナクロなんやけどなあ。作者、時代に逆らうけん。」
「あの、あた、あたしは……」
「あかね落ち着いて。いちおう主演女優やけん。」
「ぜいはあ。あたしあがり症だから……あた、あたしは実は『ヴァリエイション』が好きなんだ。かるた対決もばーん、て感じだし、作者の性格の執拗さ、っていうか、あそこまで疑似論理を徹底的に突き詰めるのはある意味異常というか、執念というか……」
「作者は、いちばん苦労したんは『エチュード』やってゆうとるよ。」
「へー何でやろ。」
「シリーズ物の初編は世界観描かんといかんけん。作者設定短うするの苦手なんよ。」
「でも『ヴァリエイション』からは安定しとるね。夕子がボケで、あたしがツッコミゆうんが固まってきたけん。あのコロンボ外田警部があそこまで伸びるキャラとは思わんかったけど。『ゴシック』ではまた美味しいとこ持ってっとるしな、あのニセ加藤武は。」
「あの、あのね、何を今更なんだけどね、シリーズの舞台はほとんど現存するんだって。住田温泉本館に熟田津城、県警察部独立庁舎に大街道。モデルになった土地の皆さんに読んでほしい、その他にお住まいの読者にも是非ノベルス片手に旅行してほしいって作者いってたよ。絶対損はしないからって。作者モデル県無茶苦茶愛してるみたいだから。」
「あとあたしらの実予弁な、これも苦労したらしいんよ。辞典やDVD買うて。」
「えっ作者モデル県出身のひとと違うん?」
「それは次のハードカヴァーで明らかになるそうや。嘘か本当か当てにはできんけど。」
「えっと、あの……あたしたちこれで千秋楽、っていうか、役者馘(クビ)?」
「出してもらえるかも知れんよ、陰陽師安倍和泉の相生シリーズゆうんがあるらしい。」
「ほしたらまた、お会いできることを楽しみにしつつ、これまでの御声援御愛顧、」
「本当にありがとうございました!!」
「あたしはどうなるんよ!! 俗物が!! 陰陽のちからを、その瞳に灼きつけるが
(幕)