こんにちは、麻見和史です。
このたび〈警視庁捜査一課十一係〉シリーズの第五弾、『聖者の凶数』を刊行させていただくことに なりました。
以前から、数を使ったミステリーを書きたいという気持ちがありました。顔と両腕が損壊された遺体には、《27》という数字が記されていた──。この着想は長らく温めていたもので、力強い作品が出来そうだという手応えを感じていたのです。
しかしその一方で、私の中には迷いもありました。事件があまりに猟奇的だと、結果として、残酷さだけが際立ってしまうのではないか、と。
何か方法はないだろうかと考えるうち、あるアイデアが頭に浮かびました。犯人側に、これ以外はないという明確な理由があれば、事件にも必然性が出てくるでしょう。それなら、ただ凄惨なだけの犯罪とはならないはずです。
こうしたアイデアから、本作のタイトルは『聖者の凶数』と決まりました。聖者とは誰か? 記された数字の意味は何なのか? ぜひ、この謎解きに挑戦していただきたいと思います。
麻見和史(あさみ・かずし)
1965年生まれ。2006年に『ヴェサリウスの柩』で第16回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。新人女性刑事が捜査一課の仲間と共に難事件に挑む警視庁捜査一課十一係シリーズが、警察小説の新機軸に挑んだシリーズとして人気を集めている。他の著書に、『真夜中のタランテラ』(東京創元社)がある。今後のさらなる活躍が期待されるミステリー界の気鋭。
最新作のタイトルは『聖者の凶数』。重くて、強い印象の言葉が並びました。
「凶数」という言葉は聞き慣れませんが、どんな意味なのでしょう?
また、今作に「凶数」を取り入れようと思いついたきっかけを教えてください。
占いが好きな方はご存じかと思いますが、「凶数」は姓名判断で使われる言葉です。姓と名の組み合わせから画数を計算し、よい運勢につながるとされるものを「吉数」、よくないとされるものを「凶数」と呼んでいます。流派によって多少違いはありますが、この作品に出てくる《27》はよくない画数とされることが多いため、『聖者の凶数』というタイトルをつけました。
じつは、執筆を始めたころはただ「数字」とだけ書いていたのですが、のちにいろいろな本を買って調べたところ、《27》は凶数だとわかったのです。事件の雰囲気にもぴったりだと思い、作品内でも凶数と記述するようになりました。
下町(上野、谷中など)が舞台です。麻見さんご自身の下町にまつわるエピソードがありましたら、ぜひ教えてください。
十数年前にデジタルカメラを購入してから、町歩きをするようになりました。下町は生活感があっていいですね。玄関先に植木鉢が並べてあり、洗濯物が干してあって、その横で猫があくびをしている。そんな光景を見ると、思わずシャッターを切りたくなります。
意外な場所で興味深いものに出合うのも、町歩きの楽しいところです。以前、東上野を歩いているとき偶然古いアパートを見つけました。あとで有名な建物だと知ったのですが、それが取り壊されると聞いて今回の作品に使わせていただきました。
ミステリーですから事件を書くのはもちろんですが、それだけでなく、東京という町の「今」を取り込むことにも力を注ぎたいと思っています。
今作では、主人公の女刑事・塔子の、人間としての成長も感じられます。麻見さんが塔子に込めた想いをお聞かせください。
塔子は捜査経験が豊富なわけではないですし、特別な能力を持っているわけでもありません。そういうごく普通の女性が、凄惨な事件とどう向き合い、どのように捜査を進めていくか、その過程を書きたくてこのシリーズをスタートさせました。
全作品に共通するのは、塔子が努力を惜しまず、最後まであきらめずに行動し続けるという点です。こんな女性刑事がいたらちょっと話してみたい、と思えるような人物になるよう工夫しています。
基本的に、頑張っている人の苦労が報われる話が好きなので、努力家の塔子には思い入れがあります。まだまだ難事件が続くでしょうが、彼女はさらに大きく成長してくれると信じています。
捜査一課十一係のメンバーは、大変魅力のある面々がそろっています。麻見さんが今、それぞれの人物に一言、直接声をかけるとしたら、どんな言葉をかけるでしょう?
如月塔子
「いつも前向きに頑張っていますね。その努力を買ってくれる人は、必ずいるはずです。自信を持ってこのまま進んでください!」
鷹野秀昭
「観察力、推理力には毎回驚かされます。休日は画像データの整理をしているんでしょうか? 私生活がちょっと気になります」
早瀬泰之
「胃の具合は大丈夫ですか? 会議会議で忙しいと思いますが、今度ぜひ、現場で捜査していたころの話も聞かせてください」
門脇仁志
「個人プレーよりチームワークを重んじる姿勢に共感します。よき兄貴、よきリーダーとしての活躍に期待しています」
徳重英次
「ストレスの多い仕事だと思いますが、いつも後輩たちに気をつかっていますよね。その人柄、私も見習いたいと思います」
尾留川圭介
「若手ということもあって、今はまだ注目される立場ではないかもしれません。でも、いつかきっとチャンスは訪れるはず。それまで力を蓄えていてください」
来年以降の刊行スケジュールや、目標など教えていただけますか?
2014年も〈警視庁捜査一課十一係〉シリーズの続編を、ぜひ書かせていただきたいと思っています。次回は意外な人物が活躍するかもしれません。できるだけ早い時期に完成させられるよう頑張ります。
「面白かった!」という感想をいただくことが、書き手としては一番の励みになります。これからも仕掛けに満ちた、謎と推理の警察ミステリーを書き続けますので、どうぞよろしくお願いいたします。