ミステリーとファンタジーの要素が絶妙なバランスでミックスされている初野さんの作品。
『カマラとアマラの丘』はさらに、幻想的な動物霊園と管理人の青年が登場し、「夢かうつつか」の世界で物語が繰り広げられる短編集でした。人間の悲しさ、動物の真摯さが静かに心に迫ってきます。ぜひ、今回の作品について、お話をお聞かせください。
「動物霊園」を舞台にするという発想は、どんなところから生まれたのでしょうか。着想のきっかけを教えてください。
──動物霊園というより、実際目にした場所が強く印象に残っています。霊園と丘と庭園の組み合わせは国内に実在するもので、某メーカーに勤務していたとき、営業管轄内に千葉県松戸市の八柱霊園がありました。付近に墓石の石材店が何十軒と並んでいて、もう圧巻といえる光景で、「この先にいったい何があるんだ?」と導かれるように立ち寄った覚えがあります。それは十四年前、小説家としてデビューする以前の話です。
咲き乱れる四季の花の情景は、静岡県浜松市にある「はままつフラワーパーク」がモデルになっています。若かりし頃、デートに行って大失敗した苦い経験があります。
執筆中一番苦労した点を教えてください。
──作者のひとりよがりで難しく書かないこと、思想の偏りが一切ないよう中立的な立場を保つこと。たとえば本書を通して動物愛護を振りかざすことはしていません。
本作は娯楽小説でありミステリーですので、中学生から大人まで幅広く楽しんでいただける内容となるよう心掛けました。
では逆に、執筆していて楽しかったシーンや登場人物がいたら教えてください。
──各章における青年と登場人物の対話シーンでしょうか。対人折衝における議論方法やディベートが「味付け」として小説内に溶け込んでいます。そこは書いていて楽しかったです。
好きな登場人物は……。人物ではありませんが、「シレネッタの丘」のリエル(インコ)、「星々の審判」のライカ(ラブラドール)を挙げておきます。
作品に共通しているのは、愛するものの「死」ではないでしょうか。「死」という言葉についてどんな印象をお持ちですか?
──人間には「死」という厳粛な言葉がありますが、動物(ペット)には「処分」や「間引き」が加わります。日本では社会全体が「死」そのものを隠している一面があるので、これからもっと見聞を広めていかないと容易に語れない印象があります。
むしろ「死」よりも、残された人の明日の生活や、飾らずに現代を生きている人に関心があります。某国に赴任中の自分の元上司から「会社の近所の地下鉄工事で高架が落ちてきて一人死亡して、俺じゃなくて良かった」などというメールが届くと、また一緒に飲みたいなあと思ったりします。
初野さんご自身には、どんなペット(or 動物)との思い出がありますか?
──ウサギ。ライオンドワーフの「ビアンカ」ちゃん(♀)。二年七ヵ月で尿結石の為に死亡。しばらく立ち直れませんでした。
笹井一個さんの装画を見た感想を教えてください。
──ラフ絵から完成まで、プロの仕事を羨望の眼差しで見させていただきました。素晴らしいです。ありがとうございました。
初野さんの執筆スタイルを教えてください。
──家の四畳半の執筆スペースで書きます。使用するツールは「O's Editor2」と「一太郎」、必需品はラジオ(ソニーのICF-M55)です。
作家になるうえで一番影響を受けた作家、作品は何ですか?
──答えるのに難しい質問ですが、小説家になる前に読んでおけば良かったと思った本は菊地秀行さんの『魔界行』です。
好きな音楽は何ですか?
──最近、森高千里さんのベストアルバムを購入しました。
好きな映画は何ですか?
──古い邦画ですが、鈴木清順監督の『けんかえれじい』が青春映画として抜群に面白いです。不良少年の旅立ちまできっちり描いていますよ。まさかあんな形で……という驚愕のラストに唖然。
これから『カマラとアマラの丘』を読む、読者の方々にメッセージをお願いします。
──コミックやアニメや映画など、さまざまな魅力的な娯楽媒体から「小説」を選んでくれた方に、どんな感動を贈れるかということを念頭に置いて書きました。『カマラとアマラの丘』を読んでいただくことで、得られる「もの」はあると確信しています。読書好きの方を少しでも増やすことが、自分のような若手小説家の仕事のひとつだと考えていますので、この本がバトンの役割を果たせれば幸いです。