『奇面館の殺人』お疲れ様でした。まずは、書き終わった、その瞬間のお気持ちは。
ちゃんと書き上げられて良かった……。
今回の作品で一番苦労した点は何ですか。
ありえない設定・展開等を「ありえない!」と思ってしまう分別との闘い。
そして、この作品の読みどころは。
たぶん前例のない異様なシチュエーションでの推理劇である、というところ。
ご存じの方は「懐かしの新本格」として楽しんでいただければ、と。
ご存じじゃない方ももちろん、楽しめるはず、です。
登場人物の推理作家・鹿谷門実のモデルは綾辻さんなのでしょうか。
違います(笑)。
驚愕のトリックと一行一句たりとも気を抜けない、緻密な構成と文章表現。制作過程を少しだけ教えて下さい! まず、トリックはどのようなシチュエーションで思いつかれるのでしょうか。
いろいろ。ですが、関係のないことをしているときにふと、という場合が多いかも。
今回の『奇面館の殺人』の着想のきっかけは。
おおもとまで遡れば、幼少のころに読んだ楳図かずお先生の漫画『笑い仮面』なのですが。
いわゆる「本格ミステリ」に対してかつて、「登場人物が記号でしかない」「顔が見えない」というふうな批判がよくされたので、「だったらいっそ全員に仮面を被らせてしまおうか」みたいな動機もあったかな。
構成はどのように練るのでしょうか。具体的な作業方法などはありますか。
手書きの専用ノートを用意するところから始まります。
あとはひたすら、ああでもないこうでもないと苦心して、粘土細工みたいにして形を作っていく感じ。
綾辻さんが執筆中に(もし音楽を聴かれるなら)聴く音楽は何ですか。
また、カラオケで歌う「十八番」の曲を教えて下さい。
無音の場合がいちばん多いのですが、何か流すとしたら……ホラー映画のサントラとか。
作品によっては、中谷美紀のアルバム『食物連鎖』ばかり、ということもありました。
カラオケでは……うーん、たとえばEGO-WRAPPIN'の「老いぼれ犬のセレナーデ」が得意だったり。
執筆スタイルを教えて下さい。また、執筆中、かかせないアイテムはありますか。
煙草は不可欠(銘柄はセブンスターひと筋)。次がコーヒー。その次くらいに「外が暗いこと」。
「館」シリーズは全10作、ということですが、『奇面館の殺人』で9作目。本当にあと1作なのでしょうか。
とりあえず、そのつもりでいます。
因みに『奇面館の殺人』前に読んでおいたほうがいい「館」作品はありますか。
これが最初でも大丈夫、という作品になっているはずですが。
しいて云うなら、『十角館の殺人』と『迷路館の殺人』でしょうか。
ミステリ作家になろうと思ったきっかけになった作家、作品は。
江戸川乱歩、「少年探偵団」シリーズ。
エラリイ・クイーン、悲劇4部作および「国名」シリーズ。
綾辻さんに憧れて作家を目指した若い作家さんがたくさんいます。綾辻さんにとっての「憧れ」の作家はどなたでしょう。
横溝正史、かなあ。
今後の執筆予定を、お話しいただける範囲で教えて下さい。
次は角川書店で『Another』的な長編を、という予定です。
「館」シリーズの次作は、まあいずれ。
読者の方々に、一言。
「うつしよ」をいっとき忘れて「よるの夢」を楽しんでいただければ、と願います。
1960年、京都府生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院博士後期課程修了。在学中は京大推理小説研究会に所属する。87年、『十角館の殺人』でデビュー、“新本格ムーヴメント”の嚆矢となる。92年、『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞。『水車館の殺人』『迷路館の殺人』など「館」シリーズと呼ばれる一連の長編は、現代本格ミステリを牽引しつづけている。2004年には2500枚超の集大成的傑作『暗黒館の殺人(上・下)』を発表。本書『奇面館の殺人』は、講談社ノベルスでは『黒猫館の殺人』以来20年ぶりの書き下ろしとなる。ほかに『緋色の囁き』『霧越邸殺人事件』『深泥丘奇談』『Another アナザー』など著書多数。