まずは自己紹介からお願いいたします。
越前魔太郎。作家だ。よろしく。
越前魔太郎は本名ですか?
おまえ頭だいじょうぶか?
『NECK ネック』という映画に出演されているそうですが。
ああ、今夏公開だ。本業は作家だが、そっちも楽しみにしていてくれていい。
簡単なプロフィールをお伺いしてもいいでしょうか?
乙女座、O型。山口県出身。特技は作曲、ギター演奏、サッカー。趣味は映画鑑賞、音楽鑑賞。
ずいぶんスラスラと出てきましたけど……、本当ですか?
本当だよ。検索してみるといい。舞台やドラマにもよく出演してるんだ(笑)。
ところで、お会いした印象が新鮮でした。
あぁ、よくネットとリアルで人格違うって言われるかもしれない。でもそんなこと重要じゃないだろう、書いてるものが面白ければ。
福井県出身ではないんですか?
全然違う。何の話だ?
世間では謎の作家、と呼ばれていますが……。
俺はどこぞの芥川賞候補じゃないぜ。今回の話だって断ってたんだ。講談社の食堂でメシをおごってもらえなきゃあ、来なかったぜ。
しゃ、社員食堂で良かったんですか……?
構わない。不満は講談社の食堂では酒が飲めないことだけだ。
そ、そうですか。作品が講談社ノベルス、電撃文庫とふたつのレーベルで発売される、ということですが、その意気込みは?
周りからは無謀っていわれるんだけど、そうか? 楽勝ラクショー。
「講談社ノベルス」と「電撃文庫」、ふたつのレーベルの印象を教えてください。
ふん……。「講談社ノベルス」はなんか高いな。値段が。どうにかしろ。あと「電撃文庫」はなんでもアニメとマンガにすりゃあいいってもんじゃねぇ。いい加減にしろ。
……は、ははは。つ、次の質問です! 隔月の連続リリースの実現。すごいですね!
気がつくと原稿ができている。俺はそういう能力者らしい。
能力者……ですか?
そうだ。
気づけば原稿ができているという能力?
そう思ってもらって構わない。
……わかりました(汗)。では、どういうことがきっかけでこういったプロジェクトが発足したのですか?
悪魔召喚よろしく、メフィストの編集者がいきなりやってきやがったことがきっかけといえばそうだ。まあとくに思うところはない。
衝撃のデビューですが、プレッシャーはありませんか?
それも全くない。ただ……そうだな、ここに見参ってより、ここに散る、ってほうが俺らしいか。
ところで、好きな小説や漫画などありますか?
好きな作家はころころ変わる。漫画は『JOJO』。一番好きなのは四部だな。
最近ハマっていることは?
自殺サイトの管理人に脅迫メールを出すことだ。全部で17通送った。
ひとつだけ願いが叶うとしたら何を願いますか?
棺から死者蘇生。
休日はどういった過ごし方をしていますか?
海のない県で深海魚を探してる。
4月発売の『ヴァイオリンのV』、『ウォーキングのW』についてアピールポイントをお聞
かせください。
『V』も『W』も、愛について語っている。これが分からない奴は、人を愛する資格がな
いと言っていいだろう。
6月発売の作品はもう書き上がっているのでしょうか?
ひとつは終わった。もうひとつはこの取材で受けている今も執筆中だ。俺の能力ではそういうことができる。
すこし前の回答でも、その能力者という言及がありましたが(汗)、もう少し詳しくお聞
かせいただけますか?
詳しくは言えない。ただ、ヒントはこのインタビューの中に隠されている。
ヒント……それはつまり能力のヒント?
ああ。俺が今まで喋った言葉の中に、越前魔太郎の正体がちりばめられている。能力
についてもそうだ。
もうすこし、わかりやすくご説明いただければと思うのですが……。
チッ……。いいか? 良く聞けよ。ある日俺はふたつに分かれる夢を見た。ふたつの俺を右と左、それぞれの目で認識していた。ふたつの俺は、なぜか別々に机に座り、パソコンを立ち上げ、小説を書き始めた。そして、朝起きてみたら、パソコンの中にふたつの原稿がデータとして保存されていた。小説がふたつ、完成していた。しかもそれはすべて、俺が書いたと自分で思えるものだった。はじめはただ記憶が錯乱しただけとか、酔っぱらったときに記憶がぶっ飛んだだけだろうと思っていたんだが、どうやらそうじゃない。この【能力】は本物だった。この能力をちゃちなものだと思うだろう? しかし、手から発火するとか、空を飛ぶとか、そんな能力があったところでどうなる? 火を付けたいならマッチもライターも、ガスコンロもある。現代の利器は適材適所に配置されていて、手元に無くても近くには必ず存在する。空を飛ぶことだって、生身で飛べば、ちょっと高度がたかけりゃそこはもう氷点下だぜ、それに気圧差に身体が耐え切れねえ。自由に高度を変えて優雅に飛行を楽しむことさえできない。誰もスーパーマンにはなれない。それに比べて、この力は偉大だ。なんたって、自分が書こうと思ったものが、労力無く生まれてくる。これは創造者にとって理想的だ。物語が人に与える影響ってのは目に見えないからこそ恐ろしい。じわじわと真綿で首を絞めるかのごとく、そいつの脳に浸透していくからな。越前魔太郎と聞いて、いてもたってもいられなくなってその作品を買いあさる、そんなことも不可能じゃない。今からそれを実証してみせよう。
は、はあ……。ど、どうも、ありがとうございました。では、最後に一言。
ああ、このインタビュー、ほとんど嘘だけど、な。
えぇ!?
じゃぁな。
―――― 講談社 文芸図書第三出版部の一室にて。
なぁ、この世界で食物連鎖の頂点に立っているのは人間だと思っていないか? それは大いなる誤解だ。この世界のヒエラルキーの頂点に位置する【彼ら】は闇の中でくらしている。決して表の(俺たち人間の)世界に出てこようとはしない。【彼ら】について分かっているのは、自分達の存在が人間社会にしられることを極端にきらっているということだけだ。人によく似た形をしている【彼ら】もいるが、まったく別の生き物に見えるモノもいる。
多くはないが【彼ら】と人間の間には、まれにトラブルが起こることもある。【彼ら】の秘密を持って人間に接触したり、はぐれものの【彼ら】が人間を捕食したり、他にもここでは言えないいろんなトラブルがあるんだ。そんなときに【彼ら】は事件を解決させるため、便利屋を雇う。その男が【冥王星O】……つまり俺のことだ。
これを知ってしまったお前にだけは教えてやる。困ったときは、俺の名前を三回、さけびな。
【冥王星O】!【冥王星O】!【冥王星O】!ってな。運が良ければ、助けに行ってやるよ。