若い人(主に十代から二十代前半)にとっては『忠臣蔵』あるいは『赤穂浪士』という言葉は、なじみが薄いかもしれない。
二十年ぐらい前には、テレビの連続ドラマでもよく時代劇をやっていて(当時の)若い人もよく観ていたと思う。
だから当時の人にとって『忠臣蔵』はもちろん『鞍馬天狗』や『丹下左膳』『清水の次郎長』『一心太助』『国定忠次』などのヒーローはなじみ深かった。
だが今の若い人はそれらの話の内容を知らないかもしれない。
現に『丹下左膳』『一心太助』の二つはパソコンで一発変換できなかった。
近年も中村獅童、豊川悦司の『丹下左膳』、野村萬斎の『鞍馬天狗』など、時代劇のヒーローが思い出したように復活することもあるのだが、昔ほどの人気はないようだ。
『忠臣蔵』も『赤穂浪士』も同じ物語を指している。
江戸城内において、赤穂藩藩主・浅野内匠頭が、高家・吉良上野介に斬りかかった。赤穂藩は断絶、浅野内匠頭が即日、切腹になったのに対し、吉良上野介はお咎め無しだった。このことに憤った浅野の家臣、四十七人が、仇討ちを果たすという物語である。
江戸城内で刀を抜き、人に斬りかかれば、お家断絶、家臣達が路頭に迷うことは明らかなのに、なぜ浅野内匠頭は刃傷沙汰に及んだのか――。
その原因には諸説あり、最も有名なのは、浅野内匠頭が吉良上野介に意地悪をされたというもの。
次に、塩の生産地である赤穂藩の藩主、すなわち浅野内匠頭が、塩の製法を吉良に教えなかったというもの。
あるいは浅野内匠頭が精神的に不安定だったという説。
だが、意地悪をされたぐらいで、お家断絶が判っている刃傷事件を起こすとは考えられず、また幕府の儀礼、典礼を司る吉良家が塩の製法を知る必要もない。
精神的に不安定だったことは充分に考えられるが、そうではなく、実はこの刃傷事件が計画的だった証拠がある。
浅野内匠頭は刃傷事件に関して、家来たちに手紙を残し、その中に次のような一節がある。
――この段、かねて知らせ申すべく候へども、今日やむを得ざること候故、知らせ申さず候……
事前に知らせるべきことだったが、やむを得ず知らせることができなかったということだ。
本当は事前に知らせたかった……すなわち計画的だったのだ。
ではなぜ浅野内匠頭はそのような計画を立てたのか?
私の答えは、生類憐みの令を廃絶するため……そう思えてならないのだ。
そのわけは……紙数が尽きた。知りたいかたは、私の新作『タイムスリップ忠臣蔵』をどうぞ。
過去のタイムスリップシリーズを一回でも読んだことのある読者のかたは、今回の『タイムスリップ忠臣蔵』を読んで、とまどうかもしれない。
タイムスリップシリーズを初めて読む人は……やっぱりとまどうかもしれない。
過去のタイムスリップシリーズで主役を張ってきた麓うららが、厳密な意味では本作では登場しない。 麓うららという名前の女性は登場するが、それは、今まで活躍した麓うららの子孫であり、またご先祖様なのである。
また本作は、高度に発達した知能を持つ犬たちと、犬に支配された人間たちとの戦いという、少し変わった設定なので、初めて本シリーズに接する人もとまどうかもしれないと危惧しているのだ。
そしてそのような話が、どう忠臣蔵と結びつくのか……。
それは読んでのお楽しみだが、忠臣蔵に出てくる名場面はすべて含まれているので、忠臣蔵ファンのかたもご安心を……。