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「メフィスト評論賞」創設記念対談 円堂都司昭(評論家)×法月綸太郎(作家・評論家)|webメフィスト
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「メフィスト評論賞」創設記念対談 円堂都司昭(評論家)×法月綸太郎(作家・評論家)

編集部いよいよメフィスト評論賞の募集が始まります。選考委員は法月綸太郎さんと円堂都司昭さんにお願いすることといたしました。応募要項はこの対談記事の後ろに掲載されていますが、メフィスト評論賞は「メフィスト賞受賞作家の作品(受賞作に限りません)に関する評論」であること、「字数は4千字から4万字の間」というのが大枠の規定となります。
メフィスト評論賞の創設には法月さんの働きかけがあったわけですが、そのきっかけや理由はなんでしょうか。

法 月先日、「風狂通信」の秋好亮平さんのインタビューでも話したんですが、それこそ僕らは探偵小説研究会で、いわば笠井潔さんに引っ張られて、評論を書き始めたわけです。当時、笠井さんは明確にミステリ評論家を育てるのだという意図を持っていました。
それに比べると、自分の世代は下を育てることに関してすごく臆病だったかもしれないと、ここ何年か思うようになりました。『本格ミステリ・フラッシュバック』(東京創元社)や、この間出た『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)にしても、ちゃんとミステリ評論というものをアップデートしているすごくいい仕事なんだけれども、若い人たちを育てるみたいな作業は、自分も含めてわりとみんな苦手かなあと(笑)。

円 堂育てるというより、場を作る、機会を作るみたいな方向へ行く傾向がありますね。

法 月大森望さんが主宰するゲンロンSF創作講座に講師で招かれて、あれは小説講座ですから評論とはまた違うんですけど、若い人を鍛えていく場を作っているんだなあというのをこの2年ぐらい生の現場で見せられて、自分たちはそういう作業をしてるかなと感じました。たとえば今、小説講座をされている作家は、有栖川有栖さんや太田忠司さんが思い浮かびますけど、評論のほうはわりと投げっぱなしだったような気がします。
で、たまたま編集者となぜそんな話になったのかは忘れたんですが(笑)、メフィスト賞が50回を超えたならば、それこそほんとに『本格ミステリ・フラッシュバック』とか、あとは『サンリオSF文庫総解説』(本の雑誌社)みたいな、ああいうものを作っておかないといけないのでは、メフィスト賞の全貌がわからなくなってしまう前に、何か見やすい地図のようなものを作ったほうがいいんじゃないかという話をしたのが、たぶんきっかけだと思います。

円 堂「メフィスト」では過去に僕も評論を連載していた時期があって、巽昌章さんや千街晶之さんもやっていたし、法月さんがシリーズで対談をしたりとか、そのあと綾辻行人さんと有栖川有栖さんの「ミステリ・ジョッキー」とか、けっこう評論系の記事が載っていたじゃないですか。でも、僕の連載が終わったころからどんどん評論系の記事がなくなって、気づくとメフィスト賞の選考座談会しか残ってなくて淋しい感じがしてたので、メフィスト評論賞を機会にまた評論に力を入れてくれるのはありがたいなと思っています。

こんな評論を読んできた

編集部今回、法月さんと円堂さんにおすすめの評論を10冊ずつ紹介していただいていますが、お2人はどういう経緯で評論というものに興味を持って、自分で書こうと思ってきたのか、そのルーツはなんでしょうか。

法 月いちばん遡ったら、たぶん中島河太郎さんの『推理小説の読み方』(ポプラ社)という本です。小学生、中学生ぐらいでミステリを読もうと思ったら、まずミステリはどんなものがあるんだろうと知りたいわけです。そうすると、エドガー・アラン・ポーからのミステリの歴史が記してあって、日本ではこういう作家がいて、みたいな本を手に取るのがあたりまえでした。つまり評論を読むのが小説を読むのとそんなにかけ離れたことじゃなくて、面白い本について書かれている面白い文章という感覚で、普通に評論に手を伸ばしていました。
昔からいっぱいタイトルや作家名が載っている本が好きだったんですよね、単純に。図鑑が好きっていうことの延長ですが、それこそ名探偵図鑑みたいな本が昔はよくあったじゃないですか。名探偵の紹介を見ていると面白そうで、ページの端っこのほうに作風とか書いてあるとやっぱり興味を持って、実際にその名探偵が登場する本を探すようになりますから。
あと評判悪いんですけど、藤原宰太郎さんの一連の推理クイズ本っていうのが……。

円 堂「評判悪いんですけど」って言い始めた途端にもう名前が浮かぶ(笑)。

法 月要は『頭の体操』(多湖輝)みたいなものなんですが、短い枚数で面白いネタがいっぱい書いてあるから、それはもう子どもは飛びつきますよ。

円 堂ネタバレ問題はつきまとうけど。

法 月だから、藤原宰太郎問題はけっこう難しいことではあるんですが(笑)、トリックネタバレ集を読んで、ある程度本格というのはどういうものなのかって、おぼろげな見取り図をインストールされてはいるんですよね。自分がそういうものに全く接さずに今のようなミステリファンになっていたかって問われると、自信はない(笑)。
ミステリの技術的、トリック的に知っておくべきことがものすごく肥大化しちゃって、「ミステリの面白さって何?」という初心者にとっては巨大すぎて負担でしかない状態だと、トリック本ってアンチョコとか裏口入学みたいな役目を果たしていたんですよね。それで知ったようなふりをして、実際にミステリの世界に踏み込むときにはある種、たかをくくっていたから、早くなじむことができたのかもしれないです。

円 堂確かに図鑑っていう形式は男子にとってすごく有効でしたね。

法 月その後、読んだのが都筑道夫の『黄色い部屋はいかに改装されたか?』と、小林信彦の『地獄の読書録』、丸谷才一と福永武彦、中村真一郎の『深夜の散歩』っていう、どれも海外ミステリ寄りの本だったんですけど、その3冊がとにかく面白かった。

円 堂僕がおすすめの評論の1冊に江戸川乱歩の『探偵小説の「謎」』を挙げたのは、当時は薄い文庫(現代教養文庫)で刊行されていたので買いやすかったから。子どものころ最初に買った大人の本って、春陽文庫の乱歩の『心理試験』が入っている短編集だったので、その流れで文庫本を買ったと思うんですけど、それこそ探偵小説のトリックを分類してあるので、やっぱりとっつきやすかったですね。
その後、栗本薫の『ぼくらの時代』(1978年刊行)を買った直後に中島梓の『文学の輪郭』に出会って。本屋に並べて置いてあったのかな、現在進行形の文芸評論の単行本で最初に買った本が『文学の輪郭』だったんですね(栗本薫と中島梓は同一人物)。
同時期に「本の雑誌」の存在も知ったんですよ。たまたま神保町の本屋で「本の雑誌」がレジのところに平積みになっていて、「死ね! 死ね!! 角川商法」って表紙に書いてあった(笑)。角川映画を見はじめたころだから興味を持って。「そういうことを書いていいんだ」みたいな、フリーダムな感じが面白かった。
中島梓もしばらくしてから「本の雑誌」に書くようになって、新保博久さんや香山二三郎さんも書いていて、それこそ大学のミス研が選んだ本のリストが巻末にある中身でしたね。だから、文芸誌に載るような堅い文芸評論もあれば、面白おかしく愉快に語るのもありっていう、どっちでもいいんだなっていうのをそのころに覚えて育ったという感じです。今回のメフィスト評論賞でも、堅いものでも軟らかいものでもどっちでも送ってくださいというスタンスです。

法 月今回のおすすめ評論リストを作るとき、自分の読んできた評論を振り返ってリストアップしていったわけですが、メフィスト賞についてある程度まとまった形で触れている評論って、『ニッポンの文学』(佐々木敦)しか思いつかなかったんです。まあ、ネットでは相当書かれているとは思うんですけど。それでもメフィスト賞をトータルに扱ったものは見当たらないような……。

円 堂今回のおすすめ評論の中で取り上げるかどうか迷ったのは、雑誌「ユリイカ」のミステリ・ルネッサンスという特集(1999年12月号)です。殊能将之さんがメフィスト賞を受賞したころですよね。あの特集は当時のメフィスト賞のインパクトを伝えていたと思います。

法 月メフィスト賞の第0回を『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)と考えると、あれが1994年なんですよね。メフィスト賞のスタートというか、前半は宇山日出臣という編集者のキャラクターがかなり左右していたところがあって、徐々に手は離れていったんだけど、その宇山さんが2006年に亡くなられて、だから京極さんを起点に数えるとちょうど12年周期で、ある種、折り返し地点からまた元に戻ってきたかなというタイミングではある。ここ最近のメフィスト賞の動きは、ある種、初期の新本格回帰みたいなところがありますから。だから、一応、選考委員は2人とも本格畑……円堂さんはそうでもないかな。

円 堂そうでもないです(笑)。

法 月どうしてもメフィスト賞というと異形の本格みたいなイメージがあるけれども、むしろそうじゃない新しい切り取り方というか、枠組みを若い人なら出してくれるんじゃないかなあと思ったんですよね。まあ、若い人には限らないですけれど(笑)。
辻村深月さんが本屋大賞を取り、古処誠二さんが推理作家協会賞を取ったり、浦賀和宏さんや白河三兎さんは講談社ではないところでブレイクしたり……。

円 堂遡れば乾くるみさんもそうですね。

法 月メフィスト賞が今の日本のエンターテインメント界で実はものすごく豊かな鉱脈になっているということを、きちんと見直してもいいのではないかなと思うんですね。

★この続きはメフィスト2018 VOL.2で!

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