今作「白兎」シリーズは、「欲」や「愚かさ」など「人間」を深く描き、それを情感でくるんだ作品の美しさに感嘆し、ひきこまれました。
まずは、「白兎」シリーズの着想のきっかけを教えてください。
──今まで書いてきたものと雰囲気を変えようとか、違う作品を、という意識はなかったんですが、どこまでが現実(うつつ)で、どこからが幻かわからない、そんな世界を描きたい、という思いがずっとありました。私は地方の山に囲まれた所に住んでいます。夜に山道を歩いていると、一歩間違えたら今生きている現実の世界とは全く違うところに行ってしまうんじゃないかという、感覚を揺すぶられるような体験をすることがあります。そういう世界観を描きたかった。感覚的なところから発想した小説です。
作品に共通しているのは「死」ですが、あさのさんの「死生観」を少しお伺いできればと思います。作品に共通しているのは「死」ですが、あさのさんの「死生観」を少しお伺いできればと思います。
──「生」と「死」は隣り合わせだと思っています。断絶されているのではなく、地続きのように一歩横に寄れば、傍らにすぐ「死」がある。そう思っています。
少年「白兎」を主人公にしたきっかけは何ですか。
──実は生と死のあわいにいる少年の話というのは、いつか書いてみたいと思っていたんです。そのきっかけになった話なんですが、大学の頃、夕暮れ時に山道で少年とすれ違ったことがありました。私が山から下りてきて、彼が上ってくるところでした。でも、彼がゆく道の先には何もないんです。ただ山があるだけ。果たして彼はそんな時間にどこへ向かっていたのか。そのあとどうなったのか。ずっと心のどこかにひっかかっていたんですね。それがきっかけになっている気がします。
今回の4作品の中で書いていて楽しかった登場人物は誰ですか。できれば理由も教えてください。
──主人公の白兎以外では、登場する女性たちです。『地に埋もれて』の優枝や『天国という名の組曲(アルマンド)』の看護師・千香子のように、現実の中で欲望や過去、思い出などでがんじがらめになってあがいている、そんな女性たちが私はとても好きですね。
執筆中一番苦労した点は。
──「大人の女性」を描くのが難しかったです。「作り物」になっていないかどうか、と自分に問いかけながら書くのが大変でした。
今回の4作品の共通イメージを一言で表すと?
──「薄闇」でしょうか。日が暮れかけているのか、夜が明けるところなのかは限定しませんが。
執筆環境を教えてください。
──書くのはパソコンです。場所は台所の片隅2畳くらいのスペースを本棚で仕切って、そこで書いております。飲み物は必ず温かいミルクティ−。夏はトマトジュースなどもいただきます。
好きな作家と作品は。
──エラリー・クイーンが好きです。特に中期から後期が好きで、作品だと『中途の家』。今でも読み返します。アガサ・クリスティー、ディクスン・カーなどの海外本格ミステリーが好きですね。
現在ハマっていることは何かありますか。
──豆乳黒ごまバナナきなこジュースです。簡単に作れてとても美味しいので、毎日いただいています。健康にもいいですし。
会ってみたい人は。
──アウン・サン・スー・チーさんです。とても細い方なのに、あのパワーは凄いですよね。あの強さの秘訣は何なんだろう、と。
今後描いてみたいテーマ、題材は。または次作の予定など教えてください。
──幅広くいろいろなテーマに挑戦していきたいと思っています。今後も「大人の女性」を書き続けていきたいですね。
読者の方にメッセージを。
──読んでふと、自分のまわりの世界に想いをはせていただけたら大変嬉しく思います。
あさのあつこ岡山県生まれ。1997年、『バッテリー』(教育画劇)で第35回野間児童文芸賞、また2005年に『バッテリー』全6巻で第54回小学館児童出版文化賞をそれぞれ受賞。2011年には『たまゆら』で島清恋愛文学賞を受賞した。著書に『テレパシー少女「蘭」事件ノート』シリーズ(講談社青い鳥文庫)、『The MANZAI』(岩崎書店)、『NO.6』(講談社YA! ENTERTAINMENT)、『待ってる 橘屋草子』(講談社)ほか多数。